積分領域

囲会多マッキー

第1話 ゴリラを好きになる(1)

この先生と出会ってから俺の人生は狂ってしまった。だって、あの出会いがなければ俺はこの教室に再び立つことはない。少しでも先生の近くにいたいから―――。



彼女との出会いは俺がまだ高校生の時のことである。ほぼ毎回サボっていた俺に付きまとってきた。正直ウザいと思っている。何故、俺が勉強を強制されなければならないのか。たまたま気が向いたから来た日の放課後。また、こいつは付きまとってきやがる。


「ねぇ、ここの問題だけでも良いから解いてみようよ?」


「あ? 俺、ここ中退になっても働くから良いよ」


「まぁ、そう言わずに、さ?」


足の筋肉に力を込め、久々に脚力を見せてやろうと思った。しかし、加速力で負けたうえに相手をする力でも負けてしまう。なんだ、このゴリラ女は。


「さぁ、この問題だけでも解いてってよ。解けるもんなら」


何故か自慢げな先生。仕方なく、作ったらしい問題を見る。すると、まるで小学生ですら馬鹿にできる問題ばかりだった。こいつ、脳みそ筋肉で出来てるんじゃ、と思う。


「なぁ、先生」


「なぁに? 解けないの?」


この女、本気でいい根性してやがる。流石に腹が立ってきたので解いてやろうじゃないか。


「いや、2分もあれば楽勝だ」


「へぇ。なら、計っておいてあげるね♪」


この野郎……じゃないか。仮にも女だし。こんな時、何ていえばいいのか。語彙力がなさすぎる。こいつにだけは負けたくない。さっき2分といったが、1分で終わらせてやろうじゃないか。


ピッ、ピッ、ピピッ―――


結果、俺は惨敗した。簡単そうに見えて、難しい問題が隠されていた。まさか、裏面があるとは。しかも、アークサインの積分があるとは。完全に騙された。裏面に入った瞬間に俺はこの勝負の負けを察した。


「あれ? 2分で楽勝なんじゃなかったの?」


「お前が残り30秒で〝裏面もあるよ?〟って言わなければ楽勝だっただろ」


「裏面がないなんて一言も言ってないからね、私」


こいつ、俺が解き終わって教室から出てから言いやがった。完全にあいつの反則だろう? でも、こいつに反則は通用しない、らしい。流石に俺も呆れてくる。大人げないが、彼女の勝ちにしておく。


校門を出ると、昼頃には真っ白に輝いていたものが、琥珀色に地面を照らしている。先生に「じゃあ、明日も問題用意しておくから」と言われ、振り向いた。朱色に染まった彼女の顔を見たとき、なぜか「可愛い」と思ってしまう。


「もう、いらないから」


目を合わせずらい。心拍数がなぜか上がっている。なんでこんな急にこんな気持ちになるのだろうか。

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積分領域 囲会多マッキー @makky20030217

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