追録
1-1. 土の帳
喪った。
と、彼女たちは思ってしまった。いいえ、わたしがそう、思わせてしまった。
土の柔らかさもなんだか冷たくなっていて、灯りなんてなくて当たり前なのに暗い影を感じる。何よりもそこにはひとつのにおいが沈んでいた。――死のにおい。
いつか罰を受けるとどこかで信じていた。蝶よりはるかに永い寿命と、ひとたびの薄羽を育てた背な。それを何のために授かったのか、(わかろうと、した? ……)……しなかった。だってこう思ったんだもの。“報われた”、と。
あなたたちの、ためのものだったのに。
女王の亡い
いったいいつから望みを失っていたんだろう。なんども擬人でからだを離れてしまうのを、死にゆくもののように感じていたのかしら。そんなふうにはぜんぜん、思えなかった。
今日もどったら、コロニーはしんでいた。
……それはなあに。まるで、まるで、まるで。身勝手で。理解のない。××××のようね、(ごめんなさい)
ごめんなさい。謝っても仕方がないんだわ。それは、謝られても仕方がないという意味? そうじゃないの。「身勝手」とは誰のこと? 誰でもないわ。「理解のない」とは? 誰でもないの。本当に?
多くの事実がわたしを苛んでいた。だれかのためだと、思っていたかったのかしら。その実だれかのことなんて、ひとつとして考えていないから滅んだのではないの。わたしはこの生を貪っていたのでしょう。彼女たちの不安のひとつすら、気づけないほどに。
ひとりでは、生きていけない、さだめだ。娘たちが運ぶ蜜がなければわたしも生きてはいけない。その娘たちの呼気も遠い。不思議なくらい、いつの間にかこの身体も重たかった。
きっと淋しいわね。なんだかそれだけはわかるような気がする。このくにの墓標に、わたしがきちんと眠っていないと淋しいでしょう。こんなにたりない母でも、彼女たちは慈しんでくれるはずだから。
だから、おやすみなさい。
昨日眠ったましろいシーツが恋しい。それはわたしが一晩もここを空けていたということ。ずっとむかしに包まれたティッシュのやさしさを思い返している。それはわたしが蝶の記憶に囚われているということ。あなたの声が聞きたい。それはきっとわたしが、ひとでありたい証だった。
死にゆく姿をあなたにだけは見せられない、と、まだ思ってしまう。
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