1-2

 数の限られた幸運に際して、その一つを潰してしまった。

 自分が一体何処にいるのか見当もつかずに、太陽を厭って月を追いながらただ闇雲にナナを探した、第二の生。深まる秋の色や想像以上に冷え込んでゆく風におぞましい思いもして、ああ確かに、冬は厭かもしれないと彼女の声を反芻していた。思えば焦っていたのかもしれない。視界に失いこと、耳に聴こえないこと、それだけを覚えていてどんな景色があってどんな人物と出会したか殆ど記憶に残らなかった。永い間羽を振るわせて求めた。それは、死して尚。桜の花がこの身に名残るまでになって、朦朧とした意識が醒めたのは僕を見留めてくれたナナの弟に呼ばれてようやくのことだった。

 彼が示した夏は超えてしまって、第三生に入ったのは再び秋のこと。それは土の中から始まり、ひとがたをとって目にしたのは奇しくも浅黄斑ぼくの故郷といえる山だった。澄み渡る空気に藤袴の馨が立ちこめ、それが冷たい風に乗って、南へ。(あ、)


(みちが見える。)


 その場所まではすこし遠い。だけど色付こうとする山々も風も懐かしく親しげで、僕達の旅路を祝って飾るようだった。…そのひとつひとつを零してはいけなかったのかもしれない。このすべての景色と出会ったから、僕はナナと出会ったに違いないのに。

 一面の藤袴。ここに生まれて、そして許されたこれからの二年ふたとせを全うする。

 そこにあなたが在る生ならば、幸福。

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