追録
1-1
毎日、なにかを思い出そうとしている。弟が皿を洗う水道の音、絵画のようなブルーが広がる窓の四角、遠い昔にみた夢の内容を取り戻そうとするようでもどかしい。夢といえば、今だってそう。いつも夏は夢を見ているようで覚束無いから、曜日の感覚も、時間の感覚もどこか遠くにある。私は繰り返す、口の中で、
「……
ふいに勇が手を止めてそう接いだ。私は彼をみて、この詩を知っているの、と問いかける。彼は笑って、姉ちゃんの好きなものは大抵知ってる、と言うと、また水仕事に戻っていった。
この口がいつ唄を止めてしまっていたのか全然わからないけれど、唄の切れ間をそのお伽噺の通りに繋げてくれたのだなとわかるとなんだか温かい気持ちになるのに、それは不思議と現実味を帯びている。私にとってそのことは、すこし恐ろしい。目覚めては夜に埋もれる夢のよう。またひとつ、大切な記憶が埋まって遠くに行くようで。
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