3. 来迎の花


 約束した 日の長さは過ぎはじめて


 まだ土の中


 約束した その場所を探す足は 一歩 二歩と


 すこしずつ



「どうしたらいいかしら…」



 こころだけ待ち焦がれているの


 広がる白詰草にきいても素っ気無い



 夏の においがする



 待ち焦がれているのよ


 目を閉じて


 あなたが来る夢をみる






「あなたは、」



 ふいに、春の木陰に吹く風


 その声は思い描いた人より もっと儚くて


 けれど少し 似ていて



 そんな印象を前世まえにも抱いた



「———蝶?」




 胸に熱が差す



(ひらひらと、)



 飛べなかった翅さえも


 このひとみに 見つけてくれたのかしら




 彼女のことを


 夏羅あのこは「ナナ」と呼んでいた。





「わたし、きっとあなたのことを知っているわ」





 差し出される手


 ふたりは なまえを交わして


 この手を重ねた瞬間



 きっと


 ようやく



 夏がはじまる


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