2. 斜影


 僕は、後から。



 そんな表情を知っていた


 こぼれる名前の音


 それが僕のためのものじゃないことも



「そんなに僕の顔が珍しい?」


「い、や、えっと」



 警戒するようなその目はやさしくない


 でも複雑で 強くもない


 だから僕はこう続けてしまうんだ、




「それとも、誰かに似てた?」




 誰に似てるか当ててやろうか


 そうして君があいつを知ってるなら



 僕も多分


 君が 誰だか知っている



 あなたは何 という問いかけ


 会いたくない奴にばっかり順に会っていく


 髪も瞳も彼女とは違うくせに


 どこか面影がある “それ” を




 切菜せつなは「ユウ」と呼んでいた。




(……やっぱりやめとけばよかったかなぁ)



 桜が揺れる


 あおあおと


 この木にも訪れたはずの 春の儚さ


 なんて 忘れたみたいに




「……やっぱり」



 あおあおと



「ナナも殺しちゃえばよかったかな。切菜と同じように」




 言いたくない言葉ばっかり


 お利口に並んで おちる



 僕らの足元に揺れる影


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