第17話『闇夜と鮮血の魔女』

 ……ふざけた話だ。



 団地の屋上からこの世界には存在しない、

 膨大な魔力の気配を感じたと思ったら、見知ったツラだ。


 俺だけを呼び出すためにあえて魔力を、

 ダダ漏れにしてやがった。なめたマネを。


 俺の目の前にいるこの女は魔王軍最大勢力。

 心なき鮮血の魔女ハートレス・ブラディー・マギア――ベルナール。




 魔王少女の魔神の一柱。

 もとの世界では俺とも何度かりあった因縁の敵だ。

 その強さは折り紙付き。




「んだてめぇ」


「あら……随分とツレないわね。もう私のこと忘れちゃったのかしら?」


「ふざけろ、てめぇ……どうやってこの世界にきやがった」


「あらぁ、そんなの決まっているでしょう?」



 考えたくなかった事態だ。

 だが思い当たるのは他にない。



「この世界の矯正力きょうせいりょくってヤツの力か」


「さすがは救世の勇者、ジーク・ハルト。話が早くて助かるわぁ……そうよ、あなたというこの世界の異物を排除すために召喚された存在が、この私というわけ」


「てめぇは魔王少女につくられた存在、なんで存在できるかと聞いている」


「ふふっ……さぁて、どうしてかしらねぇ?」


「とぼけんな。魔王少女が誕生する原因は俺がぶっ潰した、だからてめぇが存在すること自体がおかしい」


「ふふふっ、そうね。貴方の言うとおり


「ならなんでてめぇが、ここにいやがんだ? シキが生きている今、魔王少女は存在しねぇ。それならてめぇも存在しねぇはずだ」


「そうね。貴方の言っていることは理屈としては正しいわぁ」


「なんでてめぇが召喚されやがった」


「なぜ、私が選ばれたか? それは私が知りたいわぁ……。世界の矯正力の思惑なんて知らない、そもそもアレに意思とよべる物があるとは到底思えないのだけど」



 憎たらしいが、コイツの言っていることにウソはない。

 俺が暮らしていたもとの世界にも矯正力自体は存在した。

 矯正力はただの現象だ。意思を持った上位者ではない。



「この世界の矯正力に私が課せられた役割は、"シキ・サトミ"を絶望に染め上げた上で死んでもらうように仕向けること。絶望して死んでくれるなら、それが他殺でも自殺でもかまわない。そしてこの世界の矯正力の目的と私の思惑は一致している」


「シキはてめぇをうみだした存在、てめぇの親みたいなもんだろ……魔王軍のなかで最も魔王少女を崇拝していたてめぇが、手に掛けようとは、血迷ったか」


「ふふっ、解釈違いね。私は貴方の言う通り、私は今も魔王少女ワルプルギス様の忠実なる下僕しもべ。魔王少女は私の命よりも遥かに大切な御方おかた


「だから、何故その存在を殺そうとしてんだ」


「"シキ・サトミ"は魔王少女を育てるためのさなぎ。惨めで弱いこの世界の姿は、かりそめの物。この世界で生かすという事は、ちょうになる前のさなぎを殺すも同じ。その方が、はるかに残酷なことだと思わないかしらぁ?」


「知るかボケ。どうやらそもそもてめぇとは話あうだけ無駄だったようだな」


「あらっ……残念。交渉決裂ね。こっちの世界でなら貴方ともうまくやれると思ったのだけれども。まぁ、仕方ないわね」


「俺の目の前に姿を晒したっつー事は俺に殺される覚悟もあるってことだよなぁ?」


「ふふっ……あら、怖い」



るなら今だ。ベルナールは無防備に振る舞っているが、体の周りにはご丁寧に五層の不可視化した防御結界を展開している。だがこの距離ならば、俺の手刀でもブチ殺せる。タイミングさえ見逃さなければ……)



 まばたき。


 一瞬のスキが生じる、殺るなら、今だ――。

 体をひねり、右腕を真っ直ぐ前に突き出す。


 硬貨魔法が付与エンチャントされた俺の指先が、

 バリバリと五層の結界をガラスのように砕き、貫き進む。


 指先が魔女ベルナールの皮と肉を引き裂き、体内に侵入。

 指先が心臓に触れる。


 俺はそのまま心臓を右手で包み、圧搾する。


 ベルナールのまばたきが終わるまでの一瞬の出来事。

 自分の身になにが起こったかすら分からなかっただろう。



「………ッ……ッ?!!」



 真紅の魔女ベルナールは俺の目を見つめ、

 なにかを言おうと口をパクパクさせているが、

 あふれ出す血が気道をふさぎ喋れない。

 その姿はまるで陸にあがった魚のようだ。


 口と胸元からあふれ出す血によって、

 まさにその名の通り真紅の魔女といった体だ。

 名は体をあらわすとはまさにこのことだな。



「――ちっ、本体じゃなかったか」



 俺が刺し貫いた真紅の魔女ベルナールは、

 光の粒子となり空気に溶け、消えた。



「貴方のことだからこんな事もあるだろうと、念のために対策をしていて良かったわ。魔力の半分を持っていかれたのはシャクだけど、許してあげるわ」


「はん、ケチくせぇ事言うな。残りの半分も――今ここでもらってやるよ」


「ふふっ……私としては望むところではあるのだければ、できれば荒事はできれば遠慮したいところだわね」


「制約だろ」


「そう。私も貴方と同じように人を殺すなというめんどうな制約が課せられているのよ。貴方と私が本気で殺りあったら、多くの人間が死にももろともに消えるわ」


「ケッ」


「それに貴方の干渉のせいで、シキ・サトミの絶望が薄れてしまっている。このままじゃぁ、転生は不完全なものとなるわ。シキ・サトミにはこの世界に一切の希望を持たさず、絶望のうちに死んでもらわなくちゃ、完璧な転生にはならない」


「だれが絶望させるものか。てめぇの企みなんてすべてぶっ潰す」


「ふふっ……それじゃまた会いましょう。勇者ジーク・ハルト」



 その言葉を最後に真紅の魔女ベルナールは闇に溶けて消え去った。


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