第15話『取立て人を分からせてみた』
「……っ、おなかが痛いっ」
「シキ、大丈夫か?」
こういう時にステータス確認できないのは不便だな。
毎日シキの就寝後に治癒魔法はかけているから、
重い病気にはかかっていないはずだが、
この世界固有の病気の可能性も否定できねぇ。
「大丈夫。心配しないで。毎月この時期になると発作的に起こる」
「前みたいに、薬の飲み忘れとかは、ないな?」
「うん。……朝食の時に飲んだよ。大丈夫」
「そうか……」
「毎月ね。第三周の日曜に債権者の人が来るの。とっても怖い人。だから、ハルトくんは隠れていて。大丈夫、お金払えば帰ってくれる人だから……」
「相手は債権者とかいう奴か?」
「そう。わたしの親が経営していた会社の債権者からの取り立てが今日なの」
「あぁ、あの件か」
「うん」
「大丈夫。俺の占いによると、今日は良い方向に話が進むはずだ」
「……ふふっなにそれ。ハルトくんっぽい。でも不思議、少し心が軽くなったかな」
俺がこうシキに言うのには根拠はある。
さすがに無責任に希望をもたらせたら、
逆にかわいそうだ。
前にシキから話を聞いたあとになんとなく、
キナ臭いにおいがしたから、調べてみた。
案の定、債権者を名乗る連中はゲス野郎どもだった。
本来はシキの両親が亡くなった時に支払われた、
保険金で負債はチャラになっている。
なんでまぁ……、いままで不法な取り立てと
脅迫を行っていた当人には『分からせて』やった。
そろそろ俺が、オシオキした奴がこの家に来るはずだ。
「あの……里美さん、よろしいでしょうか?」
「……はい。今月の支払い、ですよね」
「いえ、あの……ちょっと、いいいい、言いにくいことなんですがいいですか?」
「……はいっ」
「すみません。わが社の総務の手違いでして、いままで里美さんに支払っていただいたお金。あれ、間違いだったんです。本当は、既に完済済みで、ふっ、不法に取り立てていました。いままで、脅迫によって、お金を取り立ててすみませんでしゅたっ」
「あのっ、……どういうことですか?」
「ご両親がお亡くなりになられた時の保険金で完済されていたのを、どうやら……なんらかの、はひっ……手違いで、嘘です。分かっていて、脅迫しました。里美さまに苦痛を与えていました」
「…………?」
「やっ、やっややや……やめでぐださいっ! 殺ざないでグダザイ……いやだ……そんなっ……あああ、いやだ、違っ、早く殺して! 殺して! 殺してっ!!!!」
はぁ、……みっともねぇなあ。
自分の頭を何度も何度も壁に叩きつけてやがる。
汚ぇ汁が、壁に染み付いちまってんじゃねぇか。
ちぃっとばかり『分からせ』すぎちまったか?
壊さない程度に慎重にやったつもりだが、
やっぱ、
「あの……っ、血、出てます」
だめだこりゃ。
このままじゃラチがいかねぇ。
俺が顔だした方が話、早そうだな。
「おい。誰だか知らねぇが、近所迷惑だろ」
「は………っ……はっ、はっ……」
「シキに分かるよう、
「はひぃっ。すみません。私たちの会社は5年間の間、本来は里美様のご両親の負債が既に完済済みだと知っていながら、小金欲しさに里美様を5年間に渡って脅迫し続けておりましたぁっ! 大変申し訳ございませんでしたぁっ!! お、お詫びとして、里美様の口座に、里美様から、いままでっ! お支払いしていただいた500万円の倍の、1000万円を振り込ませていただきましたぁっ!! 本当はこれ以上お支払いしたいのですが、私達の会社もこのご時世で余裕がない状況で、今後はお詫びの証拠として私が死ぬまでに毎月10万円ずつ里美様に支払い続けます。だっ……だから、もう許して下さい。許して下さい。許して下さい。なぜ許してくれないの。許して下さい。ねぇ、許して。自殺しますので、許して下さい……こっ、こんなのあまりにヅラすぎますぅ……死なせてください。死なせてください。すみません、訂正しまう。生きます、死んでも、自殺してでも生き続けて、稼いで今後も、里美様に支払い続けますぅ」
「…………っ?」
「簡潔に言え。
「ザドミ ザマノ ゴウザ、ニ 1000マンエン オジハライ シマシタ。コンゴモ マイヅ、ギギギ 10マンエン シハライ ツヅケマズズズズ……」
「あの、もう良いです。十分分かりました。それより、額から凄い血が流れていますよ、大丈夫ですか? 救急車を呼びましょうか?」
「―――ザザッ―――ピー――ガーッ――」
「おい、質問には答えろ」
「キュッ 九ッ シャッ、炒リ、マッ千ッ!」
「はいはい。要件済んだならさっさと帰れ。毎月の支払い忘れんなよ」
逃げる時だけは元気がいいな。
まだ、元気がありそうだ何よりだ。
そうでなきゃ困る。
はあ……きちんと今日のダンドリを、
『分からせた』はずなんだが、
うまくいかねぇもんだなぁ。
団地の廊下に汚ぇ汁まき散らしやがって。
ご近所迷惑で変な噂がつくのもアレだ。
しゃーねー、俺があとで掃除すっか。
「ハルトくん、さっきの……いったい、なんだったのかな?」
「よくわかんねーけど。よくある現代社会の闇って奴じゃないか?」
「そうなのね。やっぱり、……このご時世、どこも大変なのね」
「あの犯罪者もストレス社会の犠牲者の一人だったってことだな」
「怪我……うぅん、心の病気、治るといいね」
「あんなゴミに同情しなくていいぞ、シキ」
「そうかな?」
「そうだ。それに、……まっ、大丈夫だろ」
勝手に自分勝手に壊れるのを許す訳がねぇ。
アイツには長生きしてもらわなきゃ困る。
「シキもよ、あんま働きすぎてっと、さっきのアイツみたいに頭壊れるから、ほどほどにして休めよ。借金も無くなったことだしな……」
「うん……気をつける」
「それでいい」
俺はシキの頭をワシャワシャと撫でる。
「――占い」
「んっ?」
「当たったね」
「たまたまだ」
俺はポンッと軽くシキの頭に手を置いた。
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