第14話『正しい家畜の躾け方』

「んだよ、急に停電か……? あたりの電灯が消えちまったぜ」


「なんか急に俺っちのスマホぶっ壊れたんっすけど。ないわー。マジないわー」


「ウケるっ! まっ、スマホ新機種くらいこいつらで儲ければ、秒っすよ。秒」



 ちぃっとばかし、うるせえゴミだ。

 ここは黙っていてもらおうか。



サイレス沈黙



 ゴミどもの悲鳴を聞けばシキが怖がる。

 ちぃっとばかし静かにしてもらおうか。



「お前の鼻輪、オシャレだな」



 目の前の"鼻輪くん"に近づき、

 金色の鼻ピアスを鼻から引きちぎる。



「~~~っ!―ッ―!!!」



 元鼻ピアスは鼻を抑えながら、

 隠し持ったナイフを取り出す。



「随分とかわいい玩具刃物だな。果物でも剥いてくれるのか?」



 ナイフを最低限の動作で避け、

 元鼻ピアスの両肩の上に手を置き、

 ゆっくりと、手に力をこめて握り潰す。



「どうだ? 俺の肩モミは気持ちいだろ」


「~~~――~~ッ!!!!」


「んだよ、ツレねぇじゃねぇか、なんか言えよ。せっかく人が肩を揉んでやってんのに、ずーっと黙っていちゃ分からねぇだろ」


「~~~っっ~~~ッッ!!!!―――ッッ―!!!!」


「ほらみろ、黙っているから。壊れちゃった」



 鼻ピアスの鎖骨、肩甲骨、上腕骨が、

 ポケットの中のクラッカーのように砕けちる。


 手のひらに微弱な治癒魔法を付与エンチャントし、

 皮膚の表面上は何の外傷がないように見えるが、

 体内の骨と筋繊維はズタズタ。


 皮膚の内側はハンバーグ肉のような状態になっている。

 もうこの男は肩から下の満足に動かすことは一生不可能。



「一匹」



 背後に近づいていた男がバールを振り下ろす。

 俺はゆっくりと振り返りバールを掴む。



「トンチキが。それ、人を叩くものじゃねーだろ」



 俺はバールを奪い取り地面に投げ捨てる。


 体をピタリとくっつける。

 足の付け根を握り、

 骨盤、股関節、大腿骨を破壊する。


 もうこの男は二本の足で歩く事は出来ない。


 そういや、アダ名を付け忘れていたな。

 こいつのアダ名は"モジャ夫くん"だ。



「二匹」



 ――パカン。


 乾いた音が暗闇の中に響く。


「おめぇ、常識ねぇのか。夜中にご近所迷惑だろが」


 顔面に入れ墨を入れた男、"落書きマン"が、

 まるで俺のことを化け物でもみるような表情で、

 後ろずさりながら、拳銃の発砲を続けている。


 俺はその一つ一つを指で掴み取る。

 この程度は加速魔法も、時間制御魔法も不要。


 発砲の乾いた音、空薬莢が地面を叩く音だけが、

 静まり返った夜の住宅街にこだまする。



「よぅ。落書きマン。おまえ、こいつらのボスだろ?」


「~~???~ッッ?―――!!っ―――っっっ!!!」


「おい、何いってんだよ? 聞こえねぇよ」



 土下座をしながら謝っている男に、

 ゲンコツをお見舞いする。


 ゲンコツというと可愛らしい表現だが、

 男の頭頂骨と前頭骨は砕けている。


 俺は顔面落書きマンの髪を掴み、

 無理やり立たせる。



「借りっぱなしは、ワリぃよな。玩具おもちゃ、返してやる」



 俺が握りつぶして球状になった銃弾を

 口に入れて、掌底を食らわせる。



「おう……随分と、歯並びがよくなったじゃねぇか。まるで、おじいちゃんの歯みてぇになってんぞ、おまえ」



 歯と歯が噛み合い歯茎の奥へと潜り込み、

 まるでおじいちゃんの口のようになっていた。



「いいか、これから質問する。肯定ならその場で"3回まわってコケコッコー"。否定なら、"2回まわってワン"、だ。覚えたな。落書きマン」


「~~~~ッッッ!!」


 涙と鼻水を流しながら何回も頷いている。

 醜い、豚めが。


 男は媚びへつらうような顔で、

 その場で三回まわって気づく、


 ――いまの自分が声を発せないことに。



「言われたこともできねぇ奴は畜生以下だ」



 軽くローキックを足の膝関節に当てる。

 膝の関節が砕けまるで操り人形の糸が切れたかのように、

 地面にドチャリと倒れる。



「人を不幸にするこの汚ねぇ手も、破壊しておくか」



 俺は落書きマンの左右の手を掴み握り潰す。


 見た目こそ何の外傷もないように見えるが、

 手の中の骨も肉もまるでひき肉のように混じり合い、

 ひき肉を詰めた袋と変わらない状態になっている。


 この男が箸を持つことは二度と不可能だ。


 落書きマンは、今後二度と何かを掴むことも、

 立ち上がって何かをすることもできない。



「三匹、これでしまいか」



 めんどくせぇ制約がなけりゃ、

 殺してたんだがなぁ。


 まっ、考えようによっては、

 生き続けることの方が罰になることもあるか。


 遠くに距離を取らせていたシキが、

 俺のもとに近づいてくる。


 倒れて気絶している3人も、

 外側だけは治癒魔法で回復させているから、

 シキに無駄な恐怖心を与える可能性も少ない。



「ハルトくん、怪我ない?」


「大丈夫、ちょっと体が大きいだけのクソ雑魚のガキどもだったわ」


「……ピストルの音が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね?」


「ははっ。ありゃあ、エアガンっていうオモチャだ。ピストルだったら、俺はとっくにおっ死んでるぜ。喧嘩にエアガン使うなんて、やっぱクソガキだな」


「本当によかった。ハルトくんの目にBB弾当たっていたら、大変だったね」


「ほんとだよ。エアガン人に向けるとか、常識のない野郎だったぜ」


「なんか、ぐったりしてるけどこの人たち大丈夫?」


「当て身で気絶させてるだけだ。合気道の技だから、安全だ」


「合気道……合気道って、本当に凄かったんだね」


「古武術だからな。そんじゃ、帰るか」



 今はもう動かない汚物をあとにして、

 家へと向かうのだった。

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