第12話『家路』

「たくさん買ったなぁ。こんなに買ってもらって良かったのか?」


「1万円以内で済んだから大丈夫。やっぱりジマムラは、凄いね」


「シキ、俺のために休日の貴重な時間を使ってくれてありがとうな。いつかこのお返しはするから、大船に乗った気持ちで気長に待っていなさい」


「うん、分かった。たのしみにしているね、とっても」


「おう。任せとけ!」


「ハルトくんがおうちで稼げる仕事がみつかると、いいね」


(うーん。なるほど、ね。シキは俺が外にでない前提で話をしていんのか)


「そうだな。パソコンとか使えれば家でも仕事できんのかもな?」


「パソコンはわたしが教えてあげる」


「ほう、そりゃ助かるぜ。でもよぉ、俺って実は身分証明書すら持ってないんだけど、それでも働けるのかねぇ?」


 俺の居た世界でもギルドカードが無ければ、

 仕事を受注することすら出来なかったからな。


 いろいろと面倒なことが多いこの世界のことだ、

 そのあたりも厳しいんだろうよ。


「ハルトくんって、もしかして、密入国の人、だったり?」


「……あぁ、まっそんな感じだ。シキに秘密にしていて悪かったな」


「ううん。いいの。5年前のあの世界恐慌のあとは、ハルトくんと同じような人は凄く増えているし、そんなに驚かないよ。実際、わたしの勤め先の清掃員さんもそうだし。いまは珍しくないからね」


「そんなもんなのか?」


「うん。日雇い労働の場合は身分証明書を求めないところも増えているの。明らかに見た目が外国籍の人だって分かる場合も、みんな分かっていて黙認しているみたい」


「そう、か。まっ……いろいろあるよな」


「そうだね、いろいろと厳しいよね。でも、そういう仕事は危険な仕事が多いの。だから、ハルトくんにはあんまりして欲しくないな」


「善処する。それにしてもこの国には、いろんな国の人が集まってるんだなぁ」


「そうだね」


 少し間をおいてからシキが俺に質問する。

 勇気の居る質問だったのだろう。


「……そういえば、ハルトくんってどこの国からきたの? あっ……言いにくければ無理に話さなくってもいいから。わたし、本当気にしないから」


「……えっと、そのだなぁ」


「ううん。いいの、言いたくないこともあるよね。わたし、気にしないから。わたしもいろいろあったし、嫌なことことか思い出したくないことってあるよね」


「シキは優しいな」


「わたしは、優しくなんてない、弱いだけ」


「いいや。シキは優しいね」


「なんでそう思うの?」


「なんでっ、てか? そりゃ、決まってんだろ。俺がそう思っているからだ」


「もう。ナニそれ、ハルトくんって全然論理的じゃない。ハルトくんらしい答えね……ふふっ」


「俺が言うんだから間違いねぇ。シキは優しくて、可愛くて、そして良い子だ」


「さすが無職のヒモさんが言うお言葉、説得力がありますねぇ」


 精一杯おどけてシキが答えている。

 それなら、ノッてあげるべきだろうよ。


「わっはっは。いやぁ、手厳しいねぇ。それを言われたら、ヒモの俺には返す言葉がねぇぜ! わぁー耳が痛ぇ!」


「ごめん……いまの冗談だったんだけど、無神経だったよね。言い過ぎたよね。ハルトくん、傷ついたよね?」


「いんや、全然、まったく、傷つかない」


「嘘だよ」


「はっ、嘘なもんか。シキはちょっと優しすぎるし、真面目すぎる。俺はそういうシキが好きなんだがよ。でもまっ、俺に対しては遠慮しなくても良いんだぜ?」


「わたしが、……好き?」


「ああ、俺はシキのことが好きだ。言ってなかったか?」


「――なんで?」


「そりゃ、好きだから、好きなんだろ。それ以外の理由なんて必要か?」


 シキは頬を赤らめてどう答えていいのか思案している。

 冷やかさずに、答えを待とう。


「えっと、もしかして、ハルトくんって……ロリコンの人?」


「はっ! そうそう、そういうのでいいの! それと、シキ20歳だろ。確かに容姿はすこーしばかり幼いとは思うけど、ロリコンにはならないと思うぜ」


「ふふっ、たのしい。ハルトくんと居ると、生きてるって、感じがする」


「欲がないねぇ。世の中にはきっと楽しいことがたくさんあるぜ?」


「そうかな?」


「おう、そうよ。そうに決まってる。だからよ、一緒に楽しいこと探そうぜ」


「うん」


「ほら、下むいていないで、上みろよ。ほら、なかなかいい感じの夕焼けだぞ」


「ほんとう、……綺麗」



 昼と夜の入り混じる瞬間のことを、

 黄昏たそがれ時と言うそうだ。


 空の青い光と、水平線から顔を覗かせるくらがり、

 なんだかシキの心を映しているように感じた。


 俺はシキの瞳の奥を見つめる。



「そうだな、たしかに、綺麗だ」


 俺は一緒に夕焼けをみながら、

 シキのあたまを撫でるのあった。

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