第11話『おでかけ』

「ハルトくん、昨日はわたし寝ているだけでごめんね」


「気にすんなよ。よっぽど疲れがたまっていたんだろうさっ」


「ごめんね」



 俺はシキの頭を、無言でワシワシと撫でる。



「おー。あれが、噂のパッションセンタージマムラか。でっけぇ服屋だなぁ!」


「ふふっ。おおげさ。ハルトくん、面白いね」



 俺の暮らしていた世界の基準で考えると、

 服屋にしてはかなり大きい。

 貴族向けの服屋もここまで大きくねぇ。


 どんな服が売っているのか楽しみだ。

 そんなことを考え、自動扉をまたぐ。



「おー。すっげぇなぁ、男用も女用もいろんな服が売っているぜ」


「ジマムラはね、服だけじゃないの。お人形さんとかも売っているの」


「おおっ、ほんとだ。このクマの人形とか、シキに似合いそうだけどな。首にリボンが付いていてかわいいじゃん」


「もうわたしはお人形っていう歳ではないわ」


「そうか? 俺は人形が似合うと思うけどね」


「うー……。そう言われちゃうと、クマの人形が欲しくなってきたよー」



 あー、ここで、俺に金がありゃあ、

 クマの人形を買ってやることもできたんだがなぁ。


 あいにく今の俺は、無一文だ……。


 今日の服だって、シキが出してくれるって話になっている。

 うーん。こりゃ、反論の余地のない、ヒモだ。



「どうしたの、ハルトくん?」


「いやな、俺もそろっと、稼ぐ手段考えないとなぁとか思ってよ。俺でも、力仕事の日雇い労働とかでなら金稼ぐことできるかなーっとか、思ってよ」


「いいの、ハルトくんは、働かなくて。おうちに居て」


「……っと、ずっとそうしている訳にもいかねぇだろ。でっけぇ男が一人家に居れば、食費も倍かかるし、服代だってそうだ。もちろん、絶対にシキに借りた分は返すけどよぉ……それにしてもよ」


「ハルトくんは、おうちに居て――っね?」


「…………」



 なぜだかこの話はあまり長引かせない方が良いと感じた。

 シキの目と言葉に、有無を言わさない強い意志を感じたからだ。



「――そんなことより、ハルトくん、服探そっ」


「そうだな。それにしても、いろんな服があるもんだ」


「ハルトくん、この服とか似合いそう」


「この銀のドクロがついたパーカーかぁ? ちょっと子供っぽくねぇか」


「そうかな? わたしは格好いいと思うよ、ハルトくん強そうだし」


「シキがそこまで言うならこれにするか」


「うん」



 灰色のフード付きのパーカーだ。


 パーカーを調整するためのヒモの先端に、

 銀色のプラスチック製のドクロが付いている。


 俺の世界では比較的子供向けの服だったんだが、

 この世界だと違うのかもしれないな。



「おーい。試着おわったぞー」


「開けていい?」


「どうぞ」


「うん。やっぱり、似合ってるっ。ハルトくん、とってもかっこいい」


「ははっ、そんなにかっこいいって言われると、照れるぜ」


「ハルトくんじゃないです。服のことです」


「おっと、そりゃぁ残念」


「……ハルトくんも格好いい、けど」



 小声でシキが呟いていた言葉は、聞かなかった事にする。

 からかうと、すげー恥ずかしがりそうだからな。

 まぁ、褒められるのは嬉しいものだ。



「ハルトくんが試着している間に、ジーパンとか靴も探しておいたよ。ためしに、試着してみてくれる、かな?」


「おお。それじゃ、せっかく持ってきてくれたもんだし着てみるかね」



 その後、シキのファッションショーに、

 マネキン役として数時間付き合うことになるのだった。


 まぁ、俺もなんだかんだでけっこー楽しかった。

 いろんな服を試すのはなかなか楽しいもんだ。


 どこの世界でも女という物は服が好きなのだぁと、

 そう、しみじみとそんなことを考えるのであった。

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