第6話『キスとほかほかの朝食』
「さて、何を作ったものかね」
料理は嫌いじゃない、気分転換になるからな。
あんまり凝った料理こそ作れねぇが、
これでも仲間たちの間では、
そこそこ評判が良かった方だ。
「つっても、冷蔵庫の中身ほとんど腐っているか、賞味期限切れじゃんよ。
せっかくオレの料理スキルを、
堪能してもらおうと思ったが、むぅ。
「まっ、限られた食材の中で旨いもんを作るのは冒険者には必須のスキルだ」
賞味期限ギリギリ、つーか冷蔵庫内で乾燥のせいで
硬くなった肉や傷んだ野菜は、
魔法で新鮮な状態まで戻した。
この世界に来て思う、魔法ってチートじゃね?
「適当に火で炒めてっ、と」
味付けは塩コショウと焼き肉のタレだ。
なかなかいい具合に出来たと思う。
「皿に載せて、完成っと!」
シキがベットからもぞもぞと這い上がり、
ゆら~り、ゆら~りと歩いてくる。
「おー、おはよ。調理場貸してもらったぜ」
「……おはよ、ハルトくん」
眠そうな目を擦りながらシキがオレに抱きついて来る。
おっぱい、当たってるんだが自覚はあるのかねぇ。
朝の挨拶だろうかオレの頬にキスしたので、
お返しに、オレもシキの額にキスを返した。
「ねぇねぇ、ハルトくん。今日はとっても調子が良いの」
「ははっ。ガーガーいびきかいて寝ていたからな」
「えっ……マジで? ウソっ……恥ずかしい……」
「ははっ、じょーだんだよ。じょーだん」
ははっ、やっと女の子らしい反応を見せた。
こうやって恥じらう姿を見ていると、
ドチャクソ可愛い女の子だって思うんだけどな。
「なんかね、今日は調子、すっごくいいの」
「そりゃ良かったじゃねーか」
体調が良いのは
を寝ている間に使ったからだろう。
身体欠損なんかのわかり易い外傷は無かったから、
分かりにくいかもしれないが、本来は胴体を、
真っ二つの状態から再生させるほどの強力な治癒魔法だ。
「メシ作ったぞ、食ってくか?」
「うん。食べる」
まだこの世界の料理は勉強中だ。
今日の朝食は肉野菜炒めと白米とモヤシの味噌汁。
小柄だし、朝飯には十分だろ。
「おいしい! ハルトくんさ、無職やめてお店開いたら?」
「おいおい、褒めすぎだぞ。ただの野菜炒めだぞ?」
「なんかね、野菜がシャキシャキしていて美味しいの。不思議」
「あぁ、そりゃ素揚げつってな、事前に熱した油で野菜の表面を油でコーティングすることで、水分を逃さないようにんだ」
「よくわからないけど、凄いね」
まぁ……料理の小技以前に、そもそも食材の鮮度を
魔法で最高の状態にしたせいだろうけどな。
さすがに賞味期限切れの食材で料理を作って、
腹壊したらヒモとしても無能過ぎるからな。
「おかわり」
「あいよ。そんで、どんぐらい盛る?」
「ちょうどいい感じで」
「ほいよ」
"ちょうどいいくらいで"とか何とも曖昧な指示だ、
まぁ、シキはちっこいし小盛りくらいが良いだろうな。
「ほらよ」
「ありがとー」
それにしてもいい食いっぷりだ。
もっと旨いものを食わせたくなるってもんだ。
「ごちそうさま」
「あいよ。皿洗いとかはオレがしとくから、シキは準備でもしなよ」
「会社……行きたくないなぁ」
「行きたくなきゃ、行かなきゃいいんじゃねぇか?」
「餓死しちゃう」
「はっ、そんときゃオレが食わせてやるよ」
「えー。ハルトくん、無職なのに?」
「おいおい、痛ぇとこつくな……クリティカルヒットって奴だ」
「ふふっ、じょーだん」
そんな感じのやりとりの後に、
調理器具や皿を洗う。
洗剤っつーのは便利だ。
油があっという間に取れるから気持ちいい。
「わー。もう時間だー。そろそろ、出かけないと。会社死ね、会社死ね」
「はは。無理すんな、辞めたくなったらオレが代わりに働いてやるぜ」
「ハルトくんは、家に居るのが仕事なの。……出ていっちゃ嫌だよ」
「おうよ。つか、ホームレスのオレには出ていく所なんてねーよ。しがみついてでも出ていかねーから、安心しな」
「なかなか強気なヒモね。それと、ハルトくんにプレゼント」
猫のキーホルダーがついたこの家のスペアキーだ。
泊まって1日目のオレがもらっていいものかね?
「オレがもらって良いのか?」
「うん。だって、この家は私とハルトくんの家だから」
「マジかよ。うるうる、泣けてくるぜ」
「ふふっ。それじゃハルトくん、自宅の警備頼みます」
「ほいよ。んじゃ、ありがたく頂戴する」
鍵を貰えるってことは多少は信頼してくれてるって事か。
なかなか見る目がある子じゃないか。
「それとよ、部屋掃除とかしていいか?」
「だよね。さすがに男の子でも、この部屋は気になるよね」
「まぁ、オレは細かい事は気にならないが、ヒモ兼自宅警備員のオレとしては、さすがに何か仕事しなきゃいけないと思うわけですよ」
「嬉しい。それじゃあ、お願いしていい?」
「あいよっ、オレに任せとけ。帰ってくるまでには完璧に綺麗にしとくぜ」
「頼んだぞ、自宅警備員ハルトくん」
その言葉のあとにバタバタと
玄関の方にシキが駆けていった。
なんか小動物みたいで可愛い。
「……あのね、ハルトくん。良い?」
「んっ? よくわからねぇけど、いいぜ」
「出かける時に……キスして欲しいの」
シキをギュッと抱きしめて頬にキスする。
抱きしめた時に気がついたが、
シキの肩は小さく震えていた。
「大丈夫……うん、もう大丈夫。ありがとう、ハルトくん」
「どういたしまして。いってらっしゃい、シキ」
頭をポンポンと軽く手のひらで叩いて、
ニカっと笑顔で見送る。
シキが出かけたのを見送った後に、
玄関の扉を閉めて、鍵を締める。
「シキ、オレの前で強がってたけど……本当は会社って所が怖いみてぇだな」
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