エピローグ
040 いつも通りの日常
二〇二四年七月六日、土曜日。
仮想世界の都市シンジークもジメジメと蒸し暑く、すっかり夏の陽気に包まれていた。
そんなある日、冷房の効いた警備課オフィスでコトリンがテレビを点けるとニュース映像が映し出された。
『……続いてのニュースです。今年五月に起きたVRゲーム乗っ取り事件の裁判が行われ、神奈川県在住の高校生の少年と少女、合わせて四人に実刑判決が下されました。少年らは人気VRゲーム《マジックモンスタープラネット》内において、そのゲームのプロデューサーであるサイバージェネレート社員を脅して管理者権限を奪った上、プログラムを書き換えたとして脅迫罪や電子計算機損壊等業務妨害罪に問われていました。また少女一人については別の少女を魔法能力で洗脳していたとして魔法適正使用法違反罪でも実刑判決を受けています』
二ヶ月前、ゴールデンウィークの最中にこの世界を混乱に陥れた大事件。
その犯人プレイヤーであるマツヤ、アルル、ミーティア、リリーの四人の有罪が確定したらしい。
そしてアンノウンについては、アルルの魔法によって洗脳されていたという証拠が見つかり無罪となったようだ。
裁判のニュースが終わった後、コトリンは自分のデスクに座ってディスプレイパネルを操作し始める。
するとそこへ、アミがログインしてきた。
「おはようコトリン」
「おはよう、アミ」
挨拶を交わしつつ、アミはコトリンの隣のデスクに座る。
一度テレビに視線を向けてから、肘をついて口を開く。
「新聞で読んだけど、まさかアルルが魔法能力者だったとはね」
それに対し、コトリンは頷いて答える。
「ええ。アカウント情報だけでは魔法能力者かどうかなんて分からないものね」
「……にしても、無事に管理者権限を取り戻せて良かったよ」
「本当だわ。あの時はとにかくマツヤを倒さなくちゃって必死だったから、管理者権限の存在は完全に忘れていたし……」
乗っ取り事件の最終盤、シンジーク中央広場でのデュエル。アミとコトリンは激しい死闘の末、謎の力にも助けられて何とかマツヤを倒すことに成功した。
しかし、管理者権限をゲームプロデューサーの陽菜さんに移す前にアカウントディリーション処分を実行してしまったため、後で気付いた時は随分と慌てたものだ。
結果的に大きな問題にはならなかったが、翌日ノブヒロからはきついお叱りを受けた。
「ノブヒロにはもう少し寛容な心を持ってほしいのだけれど」
「コトリンの言う通りだよ〜。威圧感すごいもんね……」
そんな話をしていると、そのノブヒロが警備課オフィスにログインしてきた。
まずい、また怒られる……!
アミとコトリンは急いでディスプレイパネルに向き直る。
ノブヒロは軽く首を傾けたが、ギリギリ会話は聞かれずに済んだ様子。
顔を見合わせ、ホッと息を吐く。
だがその直後、ノブヒロがこちらに声を掛けてきた。
「そうだ、アミ刑事とコトリンに一つ言っておくことがある」
「「はい、何でしょう?」」
さっきの話、やっぱり聞かれてた?
二人同時にビクッと反応すると、ノブヒロは肩を竦めて言う。
「お前たち、また何かしたのか? 安心しろ、今回は説教じゃない。むしろその逆だ」
「逆、ですか……?」
予想外の言葉に、思わず訊き返すアミ。
「ああ。以前アミ刑事とは、コトリンとのバディを解消しないと約束を交わしたな? その時俺は、特別補佐官と仲を深めた人間は道を踏み外すと言った。だが、その考えは間違っていたと謝罪したい。アミ刑事はコトリンと共にこのゲーム最大の危機を救った。これは二人の強い絆が生んだ結果だ。もしアミ刑事とコトリンが各々で戦っていれば、恐らく最悪のシナリオになっていただろう」
特別補佐官を廃ゲーマーだと蔑んでいたノブヒロだったが、どうやら考えが変わったらしい。
「……アミ刑事、コトリン。これからも抜群のコンビネーションを活かし、不正やチートに対処していってくれ」
「「はい!」」
ノブヒロの激励の言葉に、アミとコトリンは力強く頷いた。
それから間もなく。
「お疲れ〜っす」
「チッ。おめぇらログインしてんならさっさと仕事しろや」
早番だったザックとベクターがパトロールから戻ってきた。
警備課メンバー全員が揃ったところで、ノブヒロが気を引き締めるように告げる。
「本日より共闘イベント《ウェーノパーク解放戦線》が開催される。不正行為ゼロを目指し、より集中して任務に当たれ」
「「了解!」」
アミとコトリンは今日も、そしてこれからも、不正の無い世界を目指してパトロールを続けていく。
【本編完結済み】仮想世界警備課 〜新米刑事と美少女廃ゲーマーの捜査日誌〜 横浜あおば @YokohamaAoba_
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