037 ワンサイドゲーム

「二十連撃剣技、トゥエニーストライク!」

「上位剣技、テンペストブレイク!」


 デュエルマッチ開始と同時、コトリンとマツヤが同時に剣を振るう。

 直後、緑色の光芒と深紫色の光芒が交わる。


 コトリンの繰り出したソードスキルは連続して二十回もの斬撃を与える強力な技。それに対し、マツヤが繰り出したのは一撃必殺のソードスキルのようだ。


 一撃目でコトリンが押し勝つことさえ出来れば、マツヤは残り十九回の斬撃をほぼノーガードで受けることになる。その場合、マツヤのHPは一気に三分の一ほど削れる。勝ちの目はかなり大きくなるだろう。

 しかし反対に、もしマツヤが押し勝ったとしたら。その時は重い一撃がコトリンを襲い、彼女のHPは残り十パーセントを切る可能性が高い。


「くっ!」


 その状況を理解しているからこそ、コトリンは絶対に堪えなければと唇を噛む。強く足を踏み込み、全身の力を剣に込める。

 だが、マツヤは余裕の表情を浮かべたまま、コトリンの剣を受け続けている。

 それはまるで一生懸命立ち向かってくる子供を弄んでいるかのようで。


「あなたのそういうプレイスタイル、大嫌いよ……!」


 憎悪に顔を歪め、更に剣を強く押し込むコトリン。


「感情に任せているだけじゃ、勝てるもんも勝てねーよ」


 その発言に対し、呟いたマツヤの口元が緩む。


 刹那、コトリンの剣がさらりと受け流された。体勢を崩し、脇腹がガラ空きになってしまう。


「コトリン、危ない!」


 このままではマツヤのソードスキル直撃だ。アミの叫び声に、コトリンは必死に身体を捻った。


 少しでもダメージを少なく。こんなところで負ける訳にはいかない。


「トッププレイヤーの私は、そう簡単に倒せないわよ」

「おっと、反射神経はいいみたいだな」


 ほんの少しだけ関心したようなマツヤの言葉と同時、左脚に激痛が走る。

 仮想の感覚とは思えないほどの焼けるような痛み。モンスターとの戦闘中にHP全損のダメージを負った時と比べても、明らかに様子が違う。


「何なの、この痛さは……」


 早く立ち上がらなければ。剣を構え、マツヤに一撃食らわせないと。

 頭では分かっているのに、何故か身体が動かない。言うことを聞かない。


 そんなコトリンの元に、アミが顔面蒼白になって近づいてきた。


「コトリン、大丈夫? 脚が……」

「えっ?」


 脚が一体どうしたというのか。

 確かめるべく、コトリンは視線を自分の左脚へと向ける。


「っ……!」


 そこでようやく、自分の身(というよりアバターだが)に何が起きているのかを理解した。

 先ほどのマツヤの斬撃により、コトリンは左脚を切断され失ってしまっていたのだ。これではいくら足掻いても立ち上がれるはずもない。


「はははっ。警備課の特別補佐官のくせに、随分と鈍感なんだな。そんなお前がトッププレイヤーとか聞いて呆れるぜ」


 愉快そうに笑うマツヤ。それに対して彼のパーティーメンバーであるアルルやミーティア、リリーも同調して笑う。


「ふふふっ、気付くまでに結構タイムラグあったよね」

「やっぱりお兄ちゃんが最強ってことだねっ!」

「あんな間抜け女、さっさとやっつけちゃいなさいよ」


 コトリンは悔しさと痛みに顔を歪めながらも、必死で身体を動かそうと試みる。だが、左脚を失った状態では這いつくばって進むのが限界だった。


 アミはコトリンの背中に手を置き、首を横に振る。


「コトリン、これ以上無理しないで。あとは私が何とかするから」

「どうやって? あなたには武器も魔法も使えないでしょう?」

「大丈夫、それ貸して」


 コトリンの握っていた剣を指差すアミ。


「…………」


 黙って差し出された剣を受け取ると、アミはコトリンの頭を優しく撫でた。


「きっとその痛みを放置してると、現実にも影響が出ると思う。だから、コトリンはゆっくり休んでて」

「待って、アミには無理よ。マツヤは信じられないほど強いわ。あなたが勝てるような相手じゃない」


 自分に代わりこの剣を使って戦おうとしていることを悟ったコトリンは、そう言って心配そうに見つめてくる。

 しかしアミは、微笑みを浮かべ穏やかな口調で告げる。


「私は刑事だから。悪い人は私がしっかり取り締まらないとね」

「だ、駄目よ……」


 引き止めようと手を伸ばす彼女を横目に、アミはマツヤに切っ先を向けた。


「あなたは自分勝手な行動により多くのプレイヤーを混乱に巻き込んだ。その上、私の大切な人をこんな目に合わせた。マツヤ、あなたにはアカウントディリーション処分を受けてもらいます」

「へぇ。やれるもんならやってみな」


 面白いと、マツヤが剣を構える。


「私だって、ちゃんと出来るんだから……」


 アミは手に力を込め、剣を思い切り後ろに引いた。

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