036 直接対決

 突然の強制転移に焦りと戸惑いを隠せないアミとコトリン。陽菜さんやカミーリア、エリーも事態を飲み込めていない様子だ。


 そして、周囲には続々と人が集められてきている。どうやら生き残っているプレイヤー全員がシンジーク中央広場に強制転移されているらしい。


 広場が騒然となる中、マツヤが姿を見せる。


「まさかここまで長引くとは想定外だったよ。俺としてはサクッと終わる予定だったんだけどな」


 想定外と言いながらも余裕の態度を見せるマツヤ。

 後ろにはアルル、ミーティア、リリー、アンノウンの四人が武器を構えて立っている。


「何が望み? 六時まで逃げ切れば私たちの勝ちじゃなかったの?」


 問いかけるコトリンに、マツヤはにやりと笑う。


「そのつもりだったけど、お前たちはルール違反をしたからな」

「ルール違反? 私たちは正当な手段で対抗してきたはずよ。チートも不正もしていないわ」

「ああ、確かにそんな外道な真似はしてない。けど、問題はそいつらだよ」


 マツヤが指差す先、そこにいたのはカミーリアの乗る巨大ロボットだった。


「あれは俺が追っ手側が有利になるように用意したアイテムだ。だけど、それを手にしたプレイヤーが逃亡者側の味方をしてしまったら、ゲームバランスが崩壊する。しかもロボットだけじゃなくクロックロッドまで手にしていたとなれば、それは立派なルール違反だと思わないか?」


 クロックロッドとは、恐らくランが持っていた木製の魔法の杖のことだろう。

 思い返せば、時間遅延魔法の正式名称もクロックディレイ。時計と付いていた。


 そんな自称ゲームマスターの主張に対し、食ってかかったのはエリー。


「そんなのただの言い掛かりでしょ。プレイヤーが逃亡者を手助けしちゃいけないなんてルール、どこにも書いてなかったじゃん」

「そりゃそうだろ。逃亡者側の味方をするメリットなんてどこにも無いんだからな」

「じゃあそっちの落ち度ってことだよね。ルール違反なんて言われる筋合いは無いと思うけど?」


 エリーが鋭い視線でマツヤを睨みつける。

 すると、ずっとマツヤの後ろで静観していたアルルとリリーが動いた。その表情はかなり怒っているようにも見える。


「マツヤくんを悪く言うなんて許さない……。あんたみたいな女、さっさと消えてよね!」

「そうよそうよ! ついでにいつまでもロボットに閉じこもってる奴もやっつけちゃいましょ」


 直度、アルルとリリーの二人は武器をレーザーガンに持ち替え、こちらへと駆け出した。それぞれの銃口がエリーとカミーリア(の乗っているロボット)に向けられる。


「カミーリア、エリー、早く逃げてっ!」


 アミは声を振り絞って、広場全体に響き渡るほど大きく叫んだ。

 しかし、その願いも虚しく。


 発射された青白いレーザーが、カミーリアとエリーを身体を射抜いた。


 ロボットが消滅し地面に落下するカミーリアと、苦しみ悶えながらその場に倒れ込むエリー。

 だが、いつまで経っても二人のアバターが消える気配は無い。


「ねえ、カミーリアとエリーはどうなったの? 大丈夫、なの……?」


 一縷の望みを信じて、縋るような瞳でコトリンを見つめるアミ。

 すると、コトリンは近くに倒れたエリーに近づき状態を確かめた。そして、こちらを振り返って答える。


「……二人は恐らく、強力な麻痺状態に陥っただけのようね。動くことはおろか喋ることも出来ないでしょうけれど、意識はあるはずよ」

「そっか、消えちゃうことは無いんだね」

「ええ多分。でも、あまり長い時間このデバフを受けていれば現実の身体に影響が無いとも限らないわ。なるべく早く解いてあげるべきね」


 アカウントディリーションやシンビンなどの措置ではなかったことは一安心だが、この状態で放置するのも危険であるなら一刻も早く助けてあげなければ。

 アミとコトリンが共通の認識で一致し、戦う姿勢を見せる。


 だが、この空間は完全にマツヤのペースに飲み込まれてしまっていた。

 自分たちを取り囲む広場中のプレイヤーの視線ほぼ全てが彼に向けられている中、カミーリアとエリーが行動不能になったのを見たマツヤは声高に宣言した。


「さて、ここからは逃亡者パーティー対ゲームマスターパーティーによるデュエルマッチを行う。俺らが勝利した暁には、プレイヤー全員にユニークスキルをプレゼントしよう!」


 その言葉を聞いた途端、広場が大歓声に沸き起こる。

 こちらにとって完全アウェーの状況。


「もしお前たちが勝てば、管理者権限を返してやってもいいんだぜ?」


 指をクイッと動かし、挑発するマツヤ。


 それを皮切りに、ゲームを超えた死闘が繰り広げられることになる。

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