035 強制転移

 時刻は午後五時を回った。

 最初は一万人近くいた敵プレイヤーの数は、カミーリアのビーム攻撃やランの時間遅延魔法にも助けられ、半分の五千人ほどにまで減らしていた。


「はぁ、はぁ……。そろそろ私の身が持たなくなってきたのだけれど……」

「そうですね……。私も体力には自信あるんですけどさすがにキツくなってきました……」


 コトリンとエリーは休む間も無く剣を振るい続けている。

 その上ソードスキルも多用しているため、残りHP以上に精神が削られているようだった。


『よ〜し、エネルギー充填完了! 目からビーム発射!』


 カミーリアの声の後、ロボットがビームを発射しながら首を三百六十度回転させる。

 直後、回避や防御が間に合わなかったプレイヤーたちがそれに飲み込まれて消滅。しかし、生き残ったプレイヤーの見た目の数はほとんど変わらない。


「もう、これじゃあ埒が明かないよ……」


 困り顔でネガティブ発言を口にするラン。

 そう呟きたくなるのも無理はないだろう。この状況であと一時間を凌ぐのはあまりに絶望的だ。


「せめて私も戦えれば、陽菜さんの護衛くらいなら出来るんだけど」


 アミは拳を強く握りしめたまま俯く陽菜さんに一度視線を向ける。


 きっと彼女も心の中では葛藤し、悩んでいるはず。

 戦わなければマツヤにゲームを完全に乗っ取られてしまう。だが、悪意の無い一般のプレイヤーに危害を加えられない。

 これは陽菜さん自身の過去の傷との戦い。一人で向き合うべき問題であり、他者が介入しても解決にはならないもの。

 静かに見守るしかない。


「MP溜まった。マジックコール、クロックディレイ!」


 ランがロッドを高く掲げ、魔法を唱える。

 初めてこの魔法を目にした時はかなりの衝撃を受けたが、何度も繰り返されるうちにすっかり慣れてしまった。今ではこの場にいる敵味方全員驚くことはない。


 しかし、今回はどこか雰囲気が違った。

 アミがその違和感の正体に気が付けないまま、ランはロッドを地面へと突き立てようと振り下ろす。

 その瞬間、敵プレイヤーの集団後方から目にも留まらぬ速さでこちらへと駆けてくる一人の女性プレイヤーの姿が。


「あれって、マツヤの仲間のミーティアじゃ……!」


 アミはランにそのことを教えるべく叫ぼうとしたが、僅かに遅かった。

 ミーティアは勢いそのままにランのロッドを蹴り飛ばすと、ランを地面に押し倒す。そして、上に覆いかぶさるような形で身動きを封じさせた。


「折角お兄ちゃんが用意したアイテムを、こんな奴らのために使うなんてあり得ない! ちょっと大人しくしててよねっ!」

「大人しくしてるってば。ちょ、ちょっと痛い……」

「私はお兄ちゃんの邪魔をしないでって言ってるの!」


 苛立ちを隠せない様子のミーティアは、右手の親指と人差し指を立てて鉄砲の形を作った。空中に出現したレーザーガンを手に取り、銃口をランの額に突きつける。


「六時になるまでは、傍観者として見ててよね。お兄ちゃんが凄いってこと、分からせてあげるんだからっ」

『ジャッジメント、シンビン。速やかに処置を実行してください』


 自動音声の後、引き金を引くミーティア。

 刹那、白いレーザーに撃ち抜かれたランは隔離空間へと飛ばされてしまった。




 やることを一つ済ませたミーティアは立ち上がると、一度周囲のプレイヤーを見回した。そして、こちらに向き直って口を開く。


「さてと、お兄ちゃんから伝言だよ。『鬼ごっこはここまで。最後は俺と直接対決だ』。というわけで、広場に強制転移っ!」


 直後、周囲が光に包まれ視界が真っ白になる。

 しばらくして目を開けると、そこはこのイベントの開始時に集められたシンジーク中央広場だった。

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