033 神話級魔法
遠くの山並みがゆらゆらと歪み、空は緑や赤の絵の具をこぼしたような奇妙なグラデーションで染められている。
そして、その空に浮かぶのはカール自走臼砲から放たれた弾丸。
「何が起こっているの……?」
コトリンが困惑の表情を浮かべ呟く。
「こんな魔法、システム的にも不可能なはず……」
陽菜さんも呆然と立ち尽くし、空を見上げている。
アミがこの魔法を発動させたランに視線を向けると、彼女はこちらに顔を向けて口を開いた。
「神話級魔法、時間遅延。説明にはそう書いてあった。それと、持続時間はそんなに長くない。今のうちに何とかしないと」
神話級魔法とは聞き馴染みのないワードだ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。時間制限があるなら早く砲撃への対処を考えなければ。
「とりあえずこの場所から逃げよう」
アミがみんなに呼びかける。
それに対し、コトリンと陽菜さん、ランの三人が頷いた。だが、エリーは巨大ロボを見上げたまま動こうとしない。
「どうしたの?」
問いかけると、エリーはロボットの顔を指差して言う。
「カミーリアが変なこと考えてるみたいで……」
「もしかして、あの弾丸を受け止めようとしてるとか?」
「いや、本人的には弾き返したいみたいなんですけど」
弾丸を弾き返す?
いくらラスボスと呼ばれるカミーリアであっても、それは無謀にも程がある。
大体、あのロボットはアイテムなのだ。耐久値がゼロになってカミーリアが生身で空中に放り出されるか、最悪の場合そのまま弾丸直撃で即死だ。
「カミーリア、無理しないで逃げないと!」
大声で呼びかける。
すると、カミーリアはマイク越しにいつもの調子で答えた。
『大丈夫ですよ! ランちゃんが時間作ってくれたので、準備が間に合いました!』
「準備って、どうやって弾丸を弾き返すつもりなの?」
『まあ見ててくださいよ刑事さん』
そんな得意げに言われても……。
コトリンと陽菜さんも不安げにロボットを見つめている。
「時間切れ。カミーリアを信じるしかない」
ランの言葉の直後、空間の歪みが解消され空が青さを取り戻した。
それと同時に、静止していた弾丸が猛スピードで落下を開始する。
カミーリアを説得出来ないまま、時間遅延魔法の効果が消滅してしまったようだ。
『いっくよ〜! 右腕マジックハンド!』
アミたちの心配をよそに、カミーリアは絶妙にダサい必殺技名を叫んだ。
そして、ロボットが右腕を高く突き上げると、その右腕が勢いよく伸びた。
「だからマジックハンドなのね……」
目からビームといい、右腕マジックハンドといい、もう少しマシなネーミングを考えてほしいものだ。
と、アミが下らない思考をしている間に、ロボットの右腕が弾丸と正面からぶつかった。
ドカーンと衝撃音が鳴り響き、強風が襲う。
「まずい、微妙にHPが削れているわ」
「カミーリアだけ残して逃げとけば良かった……」
コトリンの発言を聞いてランが後悔の念を口にする。
確かに、こんなことになるなら自分たちだけでも逃げておくべきだったと思わざるを得ない状況だ。
『あれ〜? 意外と互角だな〜』
カミーリアの呑気な声に、エリーが苛立ちを隠せない様子で声を張り上げる。
「いいから早くどうにかする!」
『もう、エリーはすぐ怒るんだから』
操縦席で口を尖らせたカミーリアが、レバーやスイッチを操作して右腕の出力を高めた。
これによって、徐々に弾丸が押し返され始める。あともう少し。
「お願い、上手くいって」
「私は、こんなところで負ける訳にはいかないのよ」
「どうか、カミーリアさんに力を」
「ラスボスなら、やってみせてよ」
アミ、コトリン、陽菜さん、ラン。それぞれが心から祈る。
その願いが通じたのか、巨大ロボの右腕とせめぎ合いを続けていた弾丸が空高く舞い上がった。弾丸は放物線を描き、自走臼砲の方へと飛んでいく。
カミーリアは、見事弾丸を弾き返すことに成功したのだ。
数秒後、遠方で巨大な爆発が起き、黒煙が上がる。
『戦車が燃えてる! 私たち、やっつけたよ!』
カミーリアの言葉を聞いて、アミは無意識に「やったー」と拳を握りしめていた。
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