031 迎撃

 その後、場所を移して鉄壁の守備陣を築き上げたアミとコトリン一行。

 巨大ロボットでプレイヤーを迎え撃つカミーリアと、そこから降りてダガーを構えるエリー。そして、木製のロッドを手に静かに佇むラン。


 あのロボットが異常に強いのは記憶に新しいところだが、エリーの剣技やランの実力はどれほどのものなのだろうか。ともあれ、ラスボスと呼ばれるカミーリアの仲間であるなら、ある程度は強いと考えて問題ないか。


『エリー、敵が来るよ!』


 ロボットの操縦席からマイク越しに声を上げるカミーリア。

 ビル六階相当の高さから周囲を見渡せるのは、こちらにとってかなりのアドバンテージと言えよう。


「了解、やってやりますか!」


 それに応えるように、エリーは大きく頷いて切っ先をプレイヤーが来る方向へと向けた。


 それから間もなく、長さ五メートルはあるランスの尖った先端を突き出し、猛然と駆けてくる男性プレイヤーの姿が見えた。その後ろからも続々と剣やメイスを持ったプレイヤーが迫って来る。数は全部で十人ほどか。


「目印が立ってるから分かりやすいな」

「このままあいつらぶっ倒して、報酬ゲットでやんすよ〜!」

「あんなチートロボットに、お宝取られてたまるか!」


 プレイヤーたちは自分たちを見つけると、口々に強気な発言をした。

 だが、自信満々な彼らの前に、全く怯むことなくエリーが立ちはだかる。


「ちょっと待った!」

「あ? 何だテメェ?」


 リーダー格のランス使いは、道を塞がれたことに苛立ちを隠せない様子でエリーを睨みつけた。


「刑事さんたちを倒そうとしてるみたいだけど、そうは問屋が卸さないよ。まずは私を倒してみな」

「ふん。ライバルの邪魔をしてまで報酬が欲しいか」

「違う。私は刑事さんたちの護衛だよ」


 その言葉に、ランス使いとその仲間たちは一斉に顔を顰めた。

 なぜ逃走者を守るのか。恐らくほとんどのプレイヤーは理解不能だろう。


「意味が分からねぇ。……最後の美味しいところだけ掻っ攫うつもりだったが、まあいい。全員まとめて葬り去るまでだ!」

「「うおおぉぉ!!」」


 ランス使いの合図で、背後のプレイヤーたちが同時に動き出した。


「ねえ、あれ大丈夫なの?」


 不安に感じたアミが、隣のコトリンに問いかける。

 すると、エリーのことをよく知っている様子のコトリンはこくりと首を縦に振った。


「ええ、あの子だったらあれくらい心配は不要よ。それに、カミーリアとランもいるのだから、私たちが出る幕は無いでしょうね。時間までゆっくりしていればいいわ」

「私たちが狙われてるのに、他人任せで良いのかな……」


 ただ守られているだけの状況に、何だか申し訳なくなってくるアミ。

 陽菜さんも同じ気持ちを抱いているようで、少々バツが悪いといった様子だ。


 そんなアミたちをよそに、エリーは腰を低く落としてダガーを構えた。


「上位剣技、シューティングスター!」


 ダガーがエフェクト音を立てながら、黄色く輝く。

 直後、エリーは向かって来るランス使いに凄まじい勢いで斬りかかった。


 右から左へ水平に、そこから斜め右下へ。そのまま上へ斬り裂き、もう一度下へ。そして、左上へ振り上げてから、最後に胸を突き刺した。

 星形を描いてラストに真ん中を貫くその剣筋は、シューティングスターという名前の通りまるで流れる星のようだった。


「ぐ、ぐおあぁぁっ!」


 ランス使いのHPが一瞬でゼロとなり、世界から追放される。


「や、やばいでやんす!」

「チーターがもう一匹いたとはな。一旦逃げるぞ」


 その衝撃的な出来事に、尻尾を巻いて退散していくプレイヤーたち。


「全く、男ならもっとシャキッとしてほしいもんだね」


 あっけらかんと呟き、笑顔でアミの方へ振り向いたエリー。


 自分はどうやらエリーの実力を大きく見誤っていたらしい。

 トッププレイヤーの一人であるコトリンにも引けを取らないような剣さばきに、アミはしばらく言葉を失ってしまった。

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