027 サバイバル
カミーリア、エリーの二人と別れ、広場を後にしたコトリンとアミ。
しかし、すでにシンジークの街中は自分たちを血眼になって捜索するプレイヤーで溢れていた。
「まずいわね……」
物陰に潜みながら周囲の様子を窺うコトリン。
「やっぱりカミーリアたちにも協力してもらった方が良かったんじゃない?」
「それはダメよ。いくら仲が良いからって不用心すぎるわ」
「あの子たち、報酬に目が眩むタイプじゃないと思うんだけど……」
頑ななコトリンに、アミはぶつぶつと言いながら空中を二回叩く。
メニュー画面が表示されると、ノブヒロに電話をかけた。呼び出し音の後、ノブヒロが応じる。
『ノブヒロだ。事態は把握している。アミ刑事、現在の状況は?』
「今は運営本部タワーに戻っている最中です。ですが、私たちを探し回っているプレイヤーが多くて上手く身動きが取れません」
『そうか、くれぐれも無理はするな。アミ刑事とコトリンが戻って来るまでの間、こちらでも対策を考える』
「了解しました。よろしくお願いします」
通話を終えようと画面に手を伸ばすアミ。
だがその瞬間、電話の向こうが騒がしくなった。
『ちょっ、ヤバイっすよ!』
『ククッ。こいつら、マジでイかれてやがるぜ!』
『落ち着け、早く対処しろ』
ザックの慌てた声、ベクターの楽しげな声、そしてノブヒロの焦りを含んだ冷静な声。
どうやら警備課のオフィスで何かが起こったらしい。
「ノブヒロ刑事、どうしました? 何があったんですか?」
アミが問いを投げかけるも、向こうはそれどころではないのか応答が無い。
その間にも、緊迫したやり取りが行われている。
『デスクに隠れつつレーザーガンで撃つぞ』
『分かったっす。って、アンパイアーが起動しないっすよ!』
『ククククッ。マツヤの野郎、本気で狂ってやがる。上等じゃんよ』
デスクに隠れる、レーザーガン、アンパイアー。
この言葉から、アミは警備課オフィスがプレイヤーに襲撃されているのだと気付いた。
「コトリン、ノブヒロ刑事たちが襲われてる! 急がないと、三人失うことになるよ」
アミがそう伝えると、コトリンはこくりと頷いた。
「ええ、そのようね。でも、あそこにずっと見張っている人がいて、ここから出られそうにないわ」
「転移魔法は?」
「それも当然考えた。だけど、逃亡者に設定されていると使用不可能になるようにプログラムされていたわ」
「そんな……」
どこまで見越していたのか。
マツヤの完璧なまでの警備課封じに、アミとコトリンは為す術も無かった。
『あっ、まずいっす! やられっ……』
『ザック!』
『ぶっ殺してやんよ! ……チッ、相討ちか』
『ベクター! くそっ、ここまでか……』
ザック、ベクターの声が聞こえなくなる。そして、ノブヒロの諦観したような呟きの直後、通話が途切れた。
恐らく報酬獲得に動いたプレイヤーにキルされてしまったのだろう。
「どうしよう、ノブヒロ刑事たちが……。運営本部タワーには管理者権限を有していないと入れないはずなのに」
「きっとプログラムが書き換えられていたのね。でも、これで分かった。この世界には、もう安全圏なんて存在しないって」
自分たちにはもう、立て籠もって時間までやり過ごすことも叶わない。
数万のプレイヤーから逃れ、抗わなければならないのだ。
「そうだ、陽菜さんは?」
「オンライン状態ではあるわ。ただ、生き残っているかどうかまでは調べられないわね」
警備課オフィスに戻る理由は無くなった。そしたら次に優先すべきはゲームプロデューサーである陽菜さんの保護なのだが、アミもコトリンも彼女の居場所を知る手段を持っていなかった。
「もう、何なんだろう。まるでゾンビ映画の世界に入っちゃったみたい……」
「その上、相手はゾンビと違って知能がある。終了時刻が設定されているとはいえ、逃げ切るのは容易じゃないわね……」
アミとコトリンはこの絶望的な鬼ごっこに、弱音を漏らすのが精一杯だった。
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