第四章
025 悪夢の始まり
二〇二四年五月三日、金曜日。
今日はゴールデンウィークの初日ということもあり、多くのプレイヤーがこのゲームにログインしていた。イベントの最終順位も確定し、プレイヤーたちは報酬のコインを使って新しい装備やアイテムを手に入れ、それを試している。
そんな光景を、アミとコトリンは警備課のオフィスから眺めていた。
「もうすぐ一週間経つけど、何も仕掛けてこないね?」
「そうね……。あの日以来ログインもしていないようだし、一体どういうつもりなのかしら」
マツヤという高校生プレイヤーが陽菜プロデューサーから管理者権限を奪ってから早六日。彼はあれからこの世界に姿を現していない。好戦的な性格を考えるとすぐにでも行動を起こすと思っていたので、ここまで何も無いと逆に恐怖を感じる。
「嵐の前の静けさ、じゃないといいんだけど……」
「きっと平和に終わるはずないわよね」
「おはよう、アミちゃん、コトリン」
「うーっす」
するとそこへ、ザックとベクターがログインしてきた。
「おはようございます」
「おはよう」
アミは二人に頭を下げ、コトリンは小さく右手を上げる。
「全員揃ったか。では朝のミーティングを始める」
デスクから立ち上がったノブヒロの声に、全員が一箇所に集合する。
「マツヤの件だが、現在は神奈川県警とも連携して捜査を進めている。しかし、一週間前から足取りが掴めないらしい。パーティーメンバーのアルル、ミーティア、リリー、それからアンノウンも同様だ。いつ何が起きてもいいように万全の準備をしておけ」
「「了解」」
「では、本日のパトロールだが……」
業務の流れを説明していたノブヒロの動きが突如止まる。
その瞬間、警備課オフィスに誰かが入ってきた。すでに警備課のメンバーは全員揃っているのに、一体誰だろうか。
振り返ると、そこにはなぜかアンノウンの姿があった。
「なぜあなたがここに?」
コトリンがアンノウンを睨みつける。
ノブヒロとザック、ベクターもレーザーガンを手に取り警戒心を強めた。
そんな警備課のメンバーを見回し、アンノウンが口を開く。
「今日の正午、シンジーク中央広場。待ってる」
「その時間、そこで何があるの?」
「それは教えられない。とにかく来て、絶対に」
最低限の情報だけを告げ、踵を返すアンノウン。
恐らくマツヤが大きなことを仕掛けてくる。
アミはコトリンと顔を見合わせ、互いに小さく頷く。
「ノブヒロ刑事。この件は私とコトリンに任せてもらえませんか? これは全てのプレイヤーに混乱をもたらす可能性があります。対応する人間がオフィスに残っている必要があるかと」
「アミの言う通り。私からもお願いするわ」
アミとコトリンの言葉に、ノブヒロはため息を吐いた。
「……リスクマネジメントとしてはその作戦は適切だろう。好きにしろ」
「ありがとうございます」
ノブヒロから正式な許可が下りた。
結果、アミとコトリンがシンジーク中央広場に向かい、ノブヒロ、ザック、ベクターの三人がオフィスに残ることになった。
そして迎えた正午。
シンジーク中央広場には数万人のプレイヤーが集結していた。まるでイベント開幕日のような熱気に包まれている。
「すごい人だね……」
「ええ。こんなにプレイヤーを集めて、マツヤは何をしようとしているのかしら」
アミとコトリンがその光景に圧倒されていると、二人組の女性プレイヤーが話しかけてきた。
「あの、これから何が始まるんですかっ?」
「なんかすごいサプライズがあるって聞きましたよ」
「あれ? あなたたちは」
この二人、どこかで見たような。
アミはじーっと二人の顔を見て誰だったか思い出そうと試みる。
そして、ふと出会った時の記憶が蘇った。
「ああ、ステータスを全部防御に振ってる子だ!」
カミーリアとエリー。
以前パトロール中に歩くのが異常に遅いプレイヤーを見かけ、怪しいと感じて職務質問をしたことがある。だがその原因は不正行為ではなく、敏捷のステータスがゼロだったからという嘘みたいなエピソード。それがこのカミーリアである。
「お久しぶりです〜!」
テンションが上がっているのか、元気よく挨拶するカミーリア。
エリーはそんなカミーリアに苦笑いを浮かべると、コトリンに質問を投げかけた。
「それで、これからここで何が始まるんですか?」
どうやらここに集まっている数万人のプレイヤーも、これから何が行われるのかは知らないらしい。
とその時、青く晴れた空が突然赤く染まった。
広場は騒然とし、プレイヤーに動揺が広がる。アミとコトリン、カミーリアとエリーも何事かと空を見上げる。
そんな中、広場に声が響き渡った。
『俺はこの世界の新しいゲームマスター、マツヤだ。これからマジックモンスタープラネットをもっと面白いゲームにする。その第一歩として、自発的なログアウトを不可能にした』
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