第2話 隣の席は京美人である!
「源田優気様の隣がいいどす」
まるで俺を知ってるような、いや名前を呼んでる時点で俺のことを知ってるよな。
そこら辺のアニオタ共なら泣きながら喜び発狂するであろうシチュエーションだ。
俺からすると喜びどころか舌打ちしたい。
アニオタ共羨ましいだろ?だが生憎俺は女子恐怖症を患っている。
てか女子恐怖症ってなんか中二病ぽいよな。
いかにも女子を嫌っているように見えて実は心の中であの子かわいいな〜みたいな事思っているだろう。あくまで自論だが。
あ、俺はそんなふざけた事思ってないからね。本当だぞ、嘘ついてないからな!
あと、アニオタ中学生女子が自分の事を中性的に装って僕とか一人称変えるとか、あれ相当痛いよな。
そうそう、痛いと言えば現在進行形で周りの視線が凄く痛いです...教室にいる皆の凍てついた視線に俺は背筋が凍った。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
何でお前なんかが女神甘奈様の隣なんだ?みたいな視線が直接心臓に突き刺さる。
何でもかんでもその女神甘奈様のご要望たってのことですから、俺からは何も言えません。
で、その女神甘奈様はSHRから、現在の昼休みまで純粋でどこか裏がありそうな彼女の瞳の視線がちらちらと右隣から感じていた。
俺の席は、扉側の一番前だ、それ故に俺が気付かないだろうと視線が集まる。
もしかしたら俺の自意識過剰かもしれない。皆は俺を見ていたのでなく甘奈を見ているのだろう、そう信じたい。
昼休みとなるときっと彼女の周りは凄くなるだろう。
いや、もう既に我が先と言わんばかりに人が群がる。
群れに巻き込まれた俺だったがどうにか抜け出して教室を出ることができた。
それにしても彼女はなんなんだろうか。
そして俺はお気に入りの場所、中庭にあるテニスコートの隣の倉庫に入っていった。
倉庫の中には三角コーンその他の用具がある。
電気がついてなく携帯の光をつける。
ほのかに香る土と草の香りはピクニックの気分を味あわせてくれる。
「このなんとも言えない香りが弁当を美味しくさせるんだよなー」
「ほんまどすかーではいただきましょ」
「ん?幻聴か何か聞こえたような...」
どっかから聞き慣れないきれいな声が聞こえた。
「幻聴?嫌やはーここ幽霊おるの?」
明らかに幻聴じゃないと気づき、後ろを振り返ると甘奈が大きな弁当箱を持って涼しい顔でたたずんでいた。
「何で君がここにいるの?」
「もー優気様はいけずな方やな、甘奈でええよ」
「いや、そうじゃなくて…」
何故ついてこられた…めっちゃ大きな疑問だ。
彼女と仲良くなろうとか下心丸出しの変態共で身動きが取れていなかった様子だったのに。
「どうやってついて来たんだ?」
それこそ心霊だ。もしかしてこいつ幽霊なのか?
「優気様、女には守るべき秘密はいくらもあるんよ」
こんな曖昧な言葉で丸めこめる力が彼女にはあるらしく俺は何故か納得してしまった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
鼻歌を歌いながら甘奈は弁当箱に巻いてある布を解く。
とても心地の良い歌であり倉庫の中にいる俺は無性に日の光が浴びたくなった。
「優気様、これお食べやす」
甘奈の手から差し出されたのは握り飯だった。
「おにぎり?」
「はい、おにぎりどす。想いを込めて作ったんよ、いっぱいおたべ」
実は言うと自分以外が素手で握ったおにぎりはあまり食べたくない。
ほら、他人の手汗とか、衛生面上あまり良くないでしょ。
「素手じゃないよね?」
恐る恐る聞いたが甘奈は薄暗いなかニコリと微笑む。
微笑む甘奈の頬には可愛らしい
思わず見惚れてしまう。
「いいから、おたべやす」
甘奈に見惚れている俺に強引ではなく、優しく手にあるおにぎりを近づけ口元に。
思わず口を開けて食べてしまった。
「おいしい…」
真っ白な手の甘奈から差し出されたおにぎりの味は塩気が丁度良く噛む程に甘い味がして何故か心が暖かくなった。
初めて食べるおにぎりの味だ。
地味な塩むすびだったが自分の弁当を食べ終わってからも甘奈の弁当にある塩むすびに手を出してしまう。
早くも甘奈に胃袋を鷲掴みされてしまった。
「漬物もおたべ」
次々に甘奈は勧めてくるが全然苦じゃなく食べてしまう。
恐ろしい程に魅了されてしまう。
「ごちそう様でした」
思わず甘奈の大きな弁当を半分食べてしまった。
「ふふ、お粗末様です」
甘奈がそう言うと倉庫の隙間から日の光が入ってきた。
隙間から入った光に照らされる彼女の姿はやはり美しかった。
彼女はいったい何がしたいんだろうか?
それは甘奈により明日知る事になるのであった。
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