いつものラーメン屋で、俺はお前を待ち続ける④
“ドンッ“
「ぐっっは……」
貧弱な俺は着地なんて出来るわけもなく、落下の衝撃でお星様が見えた。
瀕死の状態でポケットをまさぐりポーションを飲む。
「はぁはぁはぁ…………ざけんな」
強者であるはずの俺が、着地もできずにこうなることをグリードは予見していた。
だから丁寧にポーションを持たせた。
「ふざけやがって」
ふいに口をついたのはこんな言葉。
それはグリードに対してではなく、自分に対して。
平坦な荒野。飛ばされてきた方向に目をやると、遠く……微かに見える宙を舞うドラゴンの姿。
そして……薄紅色のオーラ。
だいぶ遠くまで飛ばされてしまった。
このまま走って逃げれば俺はきっと助かる。
だから走った。
脚が動く限りの限界を走った。
「ぶざけんな。ふざけんな。……ふざけんなぁぁぁぁぁ」
逃げちまえ。あいつらのことなんて放って逃げちまえ。
あんなカスども、どうでもいいだろ。
ドカスだろ……。
必死に自分に言い訳をして、走り続ける。
逃げちまえ、逃げちまえと念仏のように心の中で唱えながら、走り続ける。
──薄紅色の儚いオーラを目標に……走り続ける。
「ふざけんなよ。ぶざけんな……。ざけんなよ! 俺ぇぇええ!!」
頭の中は怒りでいっぱいだった。
「うあああああ」
走った。走った。走った──。
剣術の才もなく、魔術適性もゼロ。
行ったところで俺にはなにもできない。
これはただ、死に向かい走ってるだけ。
グリードたちの決死の覚悟さえも無駄にする。
それでも、この動き出した脚を止めることはできない。
「ああああああああ」
◇
そうして元居た場所に辿り着いた俺は、後悔した。
「あ、兄貴さん……どうして……」
瀕死の状態の子分が悶えながら俺の足首を掴んできた。
「バカヤロウ! 戦うんだよ俺も!」
この期に及んで強者を演じる自分があまりにも滑稽でたまらない。
「今ならまだ、間に合います……俺らの気持ちを……無駄にはしないでください……」
それでも止まれない。
カスだと思ってた奴らはカスではなくて、本物の仲間だった。
そのことにずっと気付かず、一人相撲を取っていた。
カスなのは俺だった。
ドカスなのは俺だった。
だから逃げるなんてことはできない。
……戦うんだ。一緒に。
鞘から剣を抜きグリードに近付く。
途中、散らばって倒れているグリードの子分たちから必死に止められるも、もはや俺は止まれなかった。
「お願いします。兄貴さん……どうか……どうか」
「なにやってんすか……レオンの兄貴さん……」
「正気になってください。あんたになにができるって言うんだ」
それはもう、殆ど答え合わせだった。
そうして必死にドラゴンからの攻撃を受け耐えるだけのグリードのもとに辿り着いた。
「なッ! どうして来やがった!! この大馬鹿野郎がァッ!」
グリードは目を見開き、酷く怒ってきた。
「うるせぇ! 自分の死に場所くらい自分で決める!」
とっさに出た言葉はこんなどうしょうもないものだった。
はなから勝つ気のない、どうしてこの場に来たのかもわからないような、馬鹿げた言葉。
それでも俺は思ってしまったんだ。
──ここだな。って。
「本当にどうしょうもないお人好しだ……。そうやって自分よりも他人を優先する。戦えないくせに……なにやってんすか……本当に……」
わかっていたことだった。
そう思っているからこそ、グリードは俺一人を逃した。
いつからバレてたのかな。
俺が戦えないって。
俺が弱っちいって。
だったら尚更、一人で逃げたりなんて……できないだろうが……。
◇
そうしてその瞬間は訪れる。
目の前のドラゴンが大きく息を吸った。
あぁ、ブレスが飛んでくる。
不思議とみんな笑っていた。
もしかしたら俺はずっとこうなることを望んでいたのかもしれない。
すべてを失ったあの日、俺の人生は終わったんだって────。
ブレスが放たれるまで、数秒。
その青い炎に目を奪われる。
見たこともないような、色の炎。
──綺麗だな。
終わるっていうのに、こんなにも穏やかな気持ちで迎えられるなんて思っても居なかった。
グリードたちも穏やかな表情をしている。
不思議と、心がひとつになったような気がした。
掛け違えたボタンが元に戻ったような、そんな気さえした。
ゆっくりと瞳を閉じる。
「エリシア……ごめん」
ふいにでた最後の言葉にハッとする。
受け入れたはずの死に、一瞬にして迷いが生まれる。
しかし現実は待ってはくれない──。
「ごめん……ごめん……エリシア…………」
そして──。
“”“ズドーーンッ““”
それは凄まじい爆発音だった。
さすがはブレス。これが最後の瞬間を飾る音、か。
などと思ったのだが、……意識がある……?
地に足がついている。
目を開けると思わぬ光景が広がっていた──。
「────!!」
ドラゴンの頭が煙に撒かれていたんだ。
いったいなにが……?
辺りを見渡すとグリードたちが呆気にとられた表情で、ただ一点を見つめていた。
その視線の先へと目を向けると、
「あれれ~ヘンタイさん! これってひょっとしてディスティニー的な感じですかぁ~?」
彼女はドラゴンよりも速く、なんの突飛押しもなく目の前に現れた。
ショート丈の黒いローブに身をまとい、風に靡かれ太ももをチラつかせる。
もう、形振りなんて構っていられなかった。
考えるよりも先に、思うより早く、言葉が先行する──。
────「パンツ見せて!」
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