第3話 綺麗なお姉さん、脱退


「馬鹿な子ね。ほんと、不器用なんだから」


 隅の椅子に座り爪の手入れをしていたレイラさんが、静かに口を開いた。


 レイラさんは綺麗なお姉さんでとても品のある女性だ。凛として美しく、麗しの乙女などと言われたりもしている。

 サポート系の魔法を得意とし、その道においてはスペシャリストと言っても過言ではない。


 魔術学校時代の二つ上の先輩で、元、王都騎士団所属のエリート。


 爺ちゃんが俺を魔術学校に入学させる際に使ったコネが、レイラさんのお父さんだったりもする。


 そんなこんなでラッキースケベ流に関しては多大な理解をもっている。


 かと言って、状況は最悪だ。

 きっとレイラさんだって不安に違いない。


「レイラさん……。すみません。これからは二人で大変ですが。俺、頑張りますから‼︎ レイラさんに負担が掛からないよう、たくさん頑張りますから‼︎」


「あー、ごめんなさいね。ヘンタイちゃんのことは好きよ。でもね、二人きりってのはちょっと無理かな〜」


「あの……無理とは?」


 俺は目をパチクリして聞いた。


 レイラさんは普段から俺をからかってくるのだが、普段と少し声のトーンが違ったからだ。


 無理って言葉の意味を考えると、聞き返さずにはいられなかった。


「年頃の男女が二人きり。あなただって子供じゃないんだからわかるでしょ?」


「わ、わかりません。お、俺、まだ子供ですから‼︎」


 あ……れ。

 レイラさんはラッキースケベ流に多大な理解がある……はず。


 でも、この展開は……。


「もう二十歳になったでしょ。お酒だって飲める。こういう時だけ子供振るのはダメよ」


「……レイラさん、まさか……スケべが嫌になったんですか?」


 結局また、このパターンなのか……。


「そうじゃないのよ。わたしの言いたいこと、わからないかしら?」


 困り顔のレイラさん。

 嫌じゃないとは言ってくれてるけど、これは……。


「俺は……レイラさんと一緒に居たいです」


「ダメよ。そのお願いは聞けないわ。男はみんなそう言って、恋に落ちてしまうのだから。……もうね、ヘンタイちゃんとはパーティーではいられないのよ。お願いだからわかってちょうだい」


 そう言うと、銀プレートの首飾りを外した。


「レイラ…………さん」


 ただ、名前を呼ぶことしかできなかった。

 もう、何を言ってもお別れだと悟ってしまったから。


「ごめんなさいね。でも、寂しくなったら、いつでもうちにいらっしゃい。ご馳走するわ。だから、パーティー活動はここでおしまい」


 終わったんだ。

 俺のパーティーは、いま、この場をもって。


 いや、まだだ。俺はパーティーリーダー。まだ、リーダーなんだ。


「……はい。それで、退職金ですが……いま持ち合わせがないので、一度家に帰って取ってくるので」


「馬鹿ね。そんなものいらないわ。自分のために使いなさい」


「で、でも」


「でもじゃないの。あなたは立派なパーティーリーダーだったわよ。わたしが太鼓判を押してあげる。楽しい時間をありがとうね」


「レイラさん……レイラさん……」


 あぁ、ダメだ。涙を……抑えられない。……でも、俺はパーティーリーダー。涙は……見せられない。


 そんな、必死に涙を我慢する様子に気付いたのか、レイラさんは気遣うように別れの言葉を言った。


「さよなら。ヘンタイちゃん。お互い、笑顔のうちに……ね」


 そして、静かにパーティーの証である首飾りをテーブルの上に置くと、アジトから出て行った。


 テーブルの上には、全部で三つの銀プレートの首飾り。


 それは、事実上のパーティー解散を意味した。


 アジトに一人、取り残される俺は、

 溢れ出す涙を止めることができなかった。


 ◇

 俺の日常は、こうしてあっけなく……終わりを告げた。

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