彼女みたいになりたい

 「さて、今朝、君になにがあったのかな?」

 「ん? なにもないよ」

 「嘘をつくのは下手なんだろ。あきらめろよ」


彼女は自作のスタンガンの手入れをしながら、はあ、とため息をついた。


 「痴漢にあったから、警察に突き出したの。そしたら警察から逃げておいかけてきたってわけ」

 「はは、君はよく変な人に絡まれるね」

 「笑い事じゃないの。うんざりしてるのよ」


彼女はスタンガンを机に置いて、僕をまっすぐ見つめながらいう。


 「でも、僕には珍事件が起きる君がうらやましいよ」

僕は本心からそう思っている。彼女とよくいるせいか、自分の生活がつまらなくてしょうがない。電車で居合わせた人がカッターナイフで襲ってくるようなことくらいがあったとしても僕はこの繰り返しの日々の埋め合わせだと受け入れられるかもしれない。

 

 「それにしても、そのスタンガン、自作なんでしょ?」

 「ええ、そうよ」

 「なんでそんなもんつくったの?」

 「私は女子高生なのよ? スタンガンの一つや二つ持っているのなんて普通でしょ?」

彼女の目は真剣そのものだ。細い眉が動き、不愉快そうな顔をする。

 「いいね、男子は」


そう言って部屋から出ていこうとする。

くるっと彼女は振り返った。

 「今、思ったんだけど、」

といいながら彼女はカーディガンの腹部をそっと持ち上げた。

血に染まった制服の裂け目から包帯がのぞいている。

 「これってある意味、腹痛だよね」

 「そうだね」

 「やっぱり私は嘘をつくのが下手かもしれない」


部屋から出ていく彼女に後ろから

 「その傷、どうしたの?」と声をかけた。

 「あの人が電車で暴れたときにやられたの」

やっぱり僕は彼女がうらやましい。

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