第11話 ルナちゃんを探せ

 朝の待ち合わせ。


 1番最初に到着するのは僕だ。僕は20分前に集合場所にいないと落ち着かない。


 そしてその次に到着するのは五十嵐さん。五十嵐さんは7分前集合が定着しているらしい。


 ちなみに田淵さんはギリだ。


 僕は田淵さんが来るまでの間に、それとなくルナちゃんのことを五十嵐さんに尋ねてみた。


「ルナちゃんですか? 本気で惚れたんですか?」


 ちょっとふくれっ面になる五十嵐さん。やはりルナちゃんの話はあまり面白くないようだ。


「いや……そうじゃなくて、彼女のこと今まで見かけたことなかったから、1年なのかなと思って」


「ん——そうですね、1年でも見かけたことないかもしれません」


 1年でも見かけたことがないだと……本当にうちの学園の生徒なのか?


 もしかしたら他校から応援に来たのか?


 いやでも、軽音部の連中は新人だと言っていたし。


 窪田衣織とも既に親しい間柄って感じだった。


「おっはよ! お待たせ!」


 念の為、田淵さんにも聞いてみたが、答えは同じで見かけたことがないとのことだった。そして田淵さんも若干機嫌が悪くなった。


 


 なんだこれ……僕の初恋の相手は謎の美少女?




 昨日とはまた違う感情が僕を襲った。




 初恋の相手が謎の美少女だなんて……最高じゃないか。




 いまだに厨二病をこじらせている僕は、妙に朝からテンションが上がった。




 ——そして昼休み。五十嵐さんがルナちゃんについて、新しい情報を提供してくれた。


 なんでもルナちゃんは軽音部部長の川瀬結衣かわせゆいが連れてきたらしい。



「つか奏、本気でルナって子に惚れたの?」 


「いや、そんなじゃないって」


「じゃぁなんでルナの話ばかりなのよ!」


 ごもっともです……でも……あ、そうだ。


「いやさ、だから今朝から言ってるじゃん。ルナちゃんのこと誰も見たことないって不思議じゃね?」


 我ながら苦しい言い訳だ。


「ま、そういえばそうなんだけど……」


 案外通用した。


「うちの男子も朝から音無捕まえて盛り上がってましたけど、結局わからずじまいでした」



 本格的に謎の美少女じゃん。



 もうこれは……軽音に入るしかないでしょ。



「あの2人とも……」


「なによ」「なんでしょう」


 あからさまに不機嫌な田淵さんと笑顔が怖い五十嵐さん。この空気で切り出すのはあれだけど、チャンスはここしかない。


「ぼ……僕軽音に入ってみようと思うんだ」


「「軽音!」」


「やっぱりルナって子につられてるじゃん!」


「本当ですよ! 女で部活決めるなんて最低ですよ!」


「いや、ちが……前から興味あったし、それに誰もルナちゃんを知らないって、なんかそそられるだろ?」


「ふーん……そうですか」


「奏ってそんなに積極的だったっけ……」


 やっぱり疑われるよね……。



「まあ、いいわギターは奏の夢だもんね。応援するよ」


「そうですね。私はそれで奏さんと知り合ったんですもんね」


「田淵さん、五十嵐さん……」


 素直に送り出されると、それはそれで罪悪感を感じてまう。僕は残念なぐらい小物だ。


 それに、最初は謎の美少女最高とか言ってたけど、ここまで足取りがつかめないと普通に気になる。


 この謎を解くにはやっぱり軽音部に入るのが1番手っ取り早いだろう。


「とりあえず、今日……体験だけでもしてくるよ」


「分かった」「分かりました」


「待っとくよ」「待ってますね」


 ……本当は先に帰ってくれた方が気楽なのだが……素直に嬉しかった。


「ありがとう」


 ——そして放課後、軽音部部室に向かった。ちなみに軽音部の顧問はうちの担任の寺田先生だ。


 部室からギターの音色が聴こえた。


 この音色は間違いない……ルナちゃんだ……。


 しかし、ルナちゃんのテクニックは凄い。もしかして音無仁さんと比べても遜色ないんじゃないだろうか。


 僕はそっと扉を開けた。


 だが、そこにいたのはルナちゃんじゃなかった。




 音無鳴おとなしなる




 窪田衣織の彼氏だ。




 僕は全てを理解しそっと扉を閉めてその場を立ち去った。




 ルナちゃんの正体は……。




 音無鳴の女装だったのだ。



 音無が弾いていたフレーズとルナちゃんが昨日聴いたフレーズが全く同じだった。



 ナル……だからルナか……逆に安直すぎて気づかなかった。



 僕は2人の元へ向かった。





「あれ? どうしたの奏早くない?」


「おかえりなさい?」


「ただいま……」


「ん? 奏もしかして……泣いてる?」


「あっ! 本当だ!」


 そりゃ涙も出るだろう。


「なあ2人とも聞いてくれるか?」


「「うん」」




 初恋の相手が男だったのだから。





 僕は2人に全て打ち明けた。


 この後しばらく2人は腫れ物を触るように僕に優しく接してくれた。



 それはそれで逆につらかったんだけど。



 ありがとう。



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