第7話 陰キャの本音
アカウントハック……どうやら2人は僕のアカウントが悪意ある第三者に乗っ取られたと考えているようだ。
面倒だからこのままでもいいかと思ったのだけれど、コミュニケーション弱者の僕が上手く話を合わせ続けられるとは到底思えない。
いずれボロが出てもっと面倒なことになるのは目に見えている。
相手がこの2人じゃなければ……。
いくら可愛いクラスメイトでも、いくら可愛い後輩でも、この2人じゃなかったら、僕は迷わず嘘をついていただろう。
でも……。
フォロワーが2人減るだけだと強がってはみたものの、2人がいなくなって寂しかったのは紛れも無い事実だ。
しかし、僕はあの事故を他人に話すことに凄く抵抗がある。
あの事故で僕が怪我をしたのは、僕の責任だ。
なのに、僕と関わりのある多くの人は、あの子のことを責めた。
名前も顔も事情も知らないくせに、あの子のことを責めた。
たとえ本人が目の前にいなくても、名前も顔も事情も知らないあの子が、僕の勝手に取った行動で責められるのが、僕はとてつもなく嫌だった。
だから本当は話したくない……でも。
でも……僕は2人を失いたく無い。
「な……なあ」
「あ、やっと帰ってきた」
「お帰りなさい」
帰ってきたってなんだ? まあ、今気にすることじゃないか……。
仮説ではあるが、僕の調べた本当のことを打ちあけることにした。
「僕は、アカウントハックにはあっていない。でも約束は覚えていない」
「そ……そう」「そうですか」
2人の表情が沈んだ。
2人とはあれだけネットでは僕と仲がよかったんだ。
いなくなって寂しいと感じるのは僕だけじゃ無いはずだ。
……だから、大切な2人のためにも僕は頑張らなくてはならない。
「2人がアカウントハックに合っていたと思っていた時期なんだけど……実は僕……」
2人の真剣な眼差しですら見つめられて照れてしまう僕の煩悩……どこかへ行ってしまえ。
「記憶が曖昧なんだ」
「「記憶が曖昧?」」
「あ……ああ、そうか記憶が曖昧だけじゃ伝わらないよな」
「そうね、記憶が曖昧だから覚えていないんだろうし」
ごもっとも。
「僕が浮上しなかった1週間、僕は生死の狭間をさまよっていた」
「「え!」」
「ちょっと事故にあって……それで頭を強打したんだ」
「それ……」「本当なのですか?」
「……うん」
長い沈黙が続いた。
僕もだけど、2人もうつむいたままだ。
「なんで……」
うん……?
「なんで言ってくれなかったのよ!」
田淵さんは涙目だった。
「そうですよ……」
「どうして言ってくれなかったんですか!」
五十嵐さんも涙目だった。
「ねえ奏……奏にとって私たちは、ただのフォロワーだったの?」
違う……。
違う……田淵さんの言う通り、2人は僕にとってただのフォロワーじゃない。
「違う……2人は僕にとって大切な人だ!」
僕も涙目になっていた。
そして珍しく声を荒げてしまった。
僕たちは変に注目を集めてしまった。
3人とも泣いていて、男が2人の女子に大切な人だと告げる。
うん……なんか最低な絵面だ。
「2人とも本当にごめん……心配させただろうけど、心配させたくなかったし……嫌だったんだ、僕が勝手に取った行動で誰かが傷つくのが」
「勝手に取った行動?」
すかさず突っ込む田淵さん。目ざとい。
「僕は、僕の不注意で事故に巻き込まれたんだよ。そのことで事故を起こした人は随分責められた……でもその人は悪くない。僕が勝手にやったことなんだ……僕は自分の行動は正しかったと思っている。でも、その子が責められると……僕は……」
2人の前だけど、公衆の面前だけど涙が止まらなかった。
僕はリアルで、こんなに感情をむき出しにしたことはなかった。
でも、涙が止まらなかった。
なんでだろう。
会ったこともない子のために、なんで僕は心を痛めているのだろう。
この後、僕たちは仲直りした。
田淵さんは奏、五十嵐さんは奏さんと呼び方が変わっていた。
2人と交わした約束は謎のままだが、2人とはこれからも繋がっていられる。
約束を忘れてしまって2人には申し訳ないけど、僕はそれが嬉しかった。
陰キャとしては間違った行動だったかもしれない。
でも僕はノブチもポチ丸大切なのだ。
————————
【あとがき】
陰キャ、振り出しに戻る!
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