第5話 二つの約束
はじめての人?
はじめての人ってあれだよね?
そういうことなんだよね?
でも、全く記憶にございません。なんなら初対面まである。
——はっ!
僕はひとつの可能性に気づいた。
もしかすると僕は二重人格なんじゃないのか?
僕の意識がない時にもう1人の僕が覚醒して五十嵐さんと出会い、恋に落ち、そして……。
なにこれ、ヤバイ! 胸熱じゃん!
つか、羨ましいなもう1人の僕!
でも、見た目はどうなんだ……って、五十嵐さんが認識してるから僕と共通か。
そうだ、名前は!
もしかして胸熱な別の名前を名乗ってる?
……ってこともないか……五十嵐さんは僕のフルネームを知っていたもんな。
なら、余計にけしからん!
僕の見た目と名前でこんな可愛い子と……してるなんて!
なんの前情報もなしに『私のはじめての人なんです!』って言われるこっちの気持ちを少しは考えろよ僕!
でもさ、この場合……責任を取るのは僕だよね。
だってもう1人の僕である以上DNAは僕と同じものになるんだし……くそっ!
いいところだけ持って行きやがって!
「ねえ、あなた……はじめての人って……奏とやっちゃったの?」
「やっちゃったって何のことですか?」
「いや、今あなたが言ったんじゃない」
「なにを?」
「はじめての人って!」
「あ……」
「なに急に顔赤くなってんのよ!」
「ま、ま、ま、ま、ま、ま、間違えました!」
「でしょうね……それにしても大きく間違えたわね」
「すみません……」
「あなたが、変なこと言うから奏が何処かへ行ったきり帰ってこないじゃない」
「な……なんですかそれ?」
「私もよく分かんないけど、なにか刺激を受けるたびに固まってるわ」
「そ、そうなんですね」
「あなたが、はじめての人なんて言うから今度は長いわね」
「すみません……」
「とりあえず呼びもどそうか?」
「どうやってです?」
「こうやって」
「パチン!」
「おーい、奏帰ってこい!」
な……なんだ……なんで僕の顔が田淵さんの両手で挟まれてんだ?
はっ……そうか。
僕は五十嵐さんにはじめての人だと言われて。
「ちゃ……ちゃらいみゃ(ただいま)」
「あ、帰ってきた。お帰り」「お帰りなさい」
ちゃらいみゃ……って、めっちゃ変な発音になったじゃないか。
「彼女、はじめての人じゃないんだって」
「そ……そうだよね」
人騒がせな……本気で病院か研究所を探さなきゃって考えてたよ。
「はじめて会いたいと思った人なんです……」
「全然違うじゃない!」
「す……すみません」
「まあ、いいわ……奏、奥行って」
田淵さんが席を立ち、僕を奥の席に追いやろうとしている……もしかして隣に座るつもりか!
「はやくしてよ……なんか彼女だけ立たせてるのも変な感じになってきたでしょ」
そういえばそうだ。でも田淵さんなんで僕の隣に……もしかして僕、田淵さんに気に入られてる?
とりあえず席替えして五十嵐さんにも座ってもらった。
——「じゃぁ聞かせてくれる? なんで奏に会いたかったの?」
いつの間にか田淵さんが仕切ってる。やっぱりノブチだ。SNSでもノブチは今の田淵さんみたいな感じだ。
「私、ポチ丸です」
ポ……ポチ丸だと……。
「なにそれ? ポチ丸って」
「僕のYoTubeのフォロワーだ」
「え……そうなの?」
「はい!」
なんて日だ。僕の数少ないフォロワーにリアルで会えるだけでも凄い確率なのに。
それが2人とも可愛い女の子だなんて……。
「なんか……別に大切そうでもない話だけど……」
「そんなことありません! 私約束したんです」
なんか何処かで聞いたような展開だな……。
「奏さん! 私こうやって約束通り会いにきました。 だから奏さんも私に約束を果たしてください!」
約束……約束なんてしてたっけ?
思い出せない。
これ思い出さないとまずいやつだよね?
おもむろにスマホ取り出して調べたら絶対怒られるやつだよね?
「ちょっと待って、約束ってなに?」
「それは、私と奏さんの秘密です」
秘密……僕なんのことだか分からないんだけど……。
「ん——秘密はいいけど、私も今から奏に約束を果たしてもらうところなの」
「や……約束ってなんですか?」
「それは私と奏の秘密」
こちらも秘密ですか……まじ、僕なんの約束したんだよ。
大事な約束なら、流石の僕も覚えているはずだ……だからきっとなんてことのない約束のはずだ。
もうこのままじゃラチがあかない……聞くしか……ないよね。
「ね……ねえ2人とも、約束って?」
「「はあ————————っ!」」
ひぃぃぃぃぃ息ぴったり!
「奏」「奏さん」
「それマジで言ってる?」「それ本気で言ってます?」
「う……うん」
「「パチ——————ン」」
「「最低!」」
2人に片方ずつ頬をぶたれた。
そして2人はそのまま帰ってしまった。
店中の注目を集めてしまった。
……消えてしまいたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます