第3話 これが噂の放課後寄り道デート
女の子に手を引かれて廊下を歩く。プロ陰キャの僕に何故こんなラブコメイベントが発生してるんだ?
でも、スタスタと速いペースで歩く彼女に、つんのめりながら手を引かれる僕は、傍目にはどこかへ連行されているように見えるだろう。
「田淵さん……ちょ……ちょっと速い」
とりあえず歩くペースを落として欲しい。
「あ、ごめんごめん」
やっと手を離して、歩くペースを落としてくれた。運動不足か……若干息切れする。そして手を引かれる感覚が無くなったのが少しさみしい。
「でも、沖くんが悪いんだからね」
「あ……ああ、ごめん……」
つい反射的に謝ってしまった。
「ごめんじゃないよ本当に……私が止めなけりゃ帰ってたでしょ?」
そりゃ、誘っていいものなのか、どうなのかも分からなかったし。
「うん……」
「やっぱり! 何考えてるのよ君は!」
田淵さん……声が大きいから変に注目を集めてしまう。
「あの……移動しない?」
僕の言葉で周りをキョロキョロする田淵さん。
「あ……うん、そうね」
察していただけたようだ。
——取り敢えず2人で駅前のファーストフード店に行くことになった。
もしかしてこれが噂の放課後寄り道デートってやつなのか!
という事は、やはり周りからリア充爆発しろとか思われているのだろうか。
だとしたら心外だ。
僕はそちら側の人間なのだから。
それに今の状況は、緊張で楽しいだなんてとても言えない。
リア充のヤツは一体どんな神経構造をしてるんだ。なんで女子と2人でいて緊張もせず楽しめるんだ。
「ねえ、なんでそんな怖い顔して黙ってるの?」
「え……」
僕、怖い顔なんかしてる? すかさずスマホで確認した。
本当だ! すんげえ怖い顔してる。
「もしかして確認したの? ウケるんだけど」
「ま……まあ」
いや、そんなこと言われても怖い顔とか言われたら気になるじゃん。
そんなやりとりをしている間にファーストフード店に着いた。いよいよ本格的に放課後寄り道デート感が出てきた。
うちの生徒も何組かいたけど、男女2人っきりは僕たちだけだ。妙に意識してしまう。
席に着くと田淵さんがノーモーションで会話をはじめた。さすがコミュニケーション強者。勝手なイメージだけど。
「沖くんてSNSと全然イメージ違うね」
そりゃSNSだもの。
そんなことよりも……そんなことよりもだ。
「つか、なんで僕のこと分かったの?」
僕のSNSのハンドルネームは『オカん』だ。バレ要素なんてないはずなのに。
「だって、YoTube(よう!チューブ)にフルネーム顔出しで動画あげてるじゃん? それでなんでって聞く方がおかしくない?」
「え……」
確かに音無仁さんを見習ってYoTubeにはフルネーム顔出しで動画はあげている。でも、チャンネル登録なんて一桁だしSNSからリンクも貼っていないなのに何故?
「え、じゃないよ……あれだけタイムラインに同じ動画投げたら普通気付くから」
ま……まじか。
「まあ、いいじゃん別に変な動画あげてるわけじゃないし、私は好きだよ」
え……好き。
もしかして僕、いま告白された?
どうしよう、ドキドキしてきた。
心がブワーってなってくるのが分かる。
なんで動画回していなかったんだろう。
一生の思い出を記録し損ねたじゃん。
「沖くんの演奏動画ね」
あ、そっちね。
心がショボーンってなってくるのが分かる。
いやいや、違うぞ! 演奏動画が評価される事こそが本来の目的じゃないか!
喜ばしいことだ……喜ばしい事なのに何故。
「……ていうか沖くん会話に間が多いね」
「ごめん」
「ごめんも多いね」
そんなこと言われても……。
「ていうか、本当にノブチなんだよね?」
「そうだよ」
ノブチとこうやって会話しているなんて信じられない。
でも本当にノブチなんだろうか? もしかして語ってるって可能性はないだろうか?
「ねえ、ちょっと聞いてい?」
「うん? なに?」
僕はノブチとオカんでしか知り得ないダイレクトメールでのやり取りとなどを話した。田淵さんはバッチリそれに答えた。
それでも流石に性癖の件は聞けなかった。
「なんだよ、疑ってたの?」
「ごめん……だってノブチと会うことになるなんて、考えてもみなかったから」
「まー分からなくもないけどね。だってオカん私のことJKだって信じてなかったもんね?」
そりゃそうだろう。SNSでJKを語るやつはおっさんと相場が決まってると何処かのエロい人が言っていたのだから。
中の人が本当に田淵さんのような可愛い子なんて確率は天文学的数字だろう。
「とりあえずJKって分かったでしょ? ちゃんと約束果たしてね」
約束……約束なんてしてたっけ?
思い出せない。
これ思い出さないとまずいやつだよね?
おもむろにスマホ取り出して調べたら絶対怒られるやつだよね?
「沖奏さんですよね!」
「はい」ってうん?
反射的に返事してしまったけど誰だ?
うちの学園の制服だけど、1年のリボンの色だ。
僕1年の女子に知り合いなんて居ないはずだけど……つか、学園でのはじめての知り合いが今一緒にいる、田淵さんなんだけど。
「私、
え……今なんて?
僕を探していた?
お会いしたかった?
何のデジャヴ?
こんな事ってあるの?
16年間生きてきて僕に会いたい女子なんて1人も現れなかった。
でも、今日だけで2人も!
しかも、2人とも可愛い。
つか……誰?
本当に誰なんだよ!
そして、約束って何?
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