ハッピーエンド?

「今日が地球最後の日だったら、何がしたい?」


 そう問う真昼の顔は、苦痛で歪んでいた。眩しすぎるくらいの色のない白が輝く病室で、最後に交わされる挨拶。伝統に従って、彼女はそう言ってみた。

 無言になってしまった東陽の、色を無くしてしまい細く切り取られた横顔、恋人の横顔をを眺め、部屋に入ってきた静謐で心地よい風に腹立たしさを感じた。彼女は恋人が口を開こうとする気配を察知して、静を作り出す。

しばらくの逡巡の後、小さく呟かれた言葉に、真昼はそりゃそうだと思わず清潔な床にしゃがみ込んでしまった。


「上手く言葉が出てこないし、考えるのももう飽きたし、辛いけど……死にたくはないな」


 東陽が生き物の大切な本能の一つを切り取られてから今日で1ヶ月目。

 私は無意識に、無防備に東陽を切り取った、その人達を知っている。復讐してやりたいと思っていた。だが、そこには少なからず自分も入っていた。

 世界が、東陽が、東陽を緩やかに否定していく、緩やかに殺していく。

 どの慰めの言葉も、それが本心であっても、もう東陽の世界には届かない。


「ねえ」


 無造作にベットに近づき、声をかけると、東陽はやっとゆっくり真昼の顔の方に目を向けた。その瞳に、真昼が写ってるか否かはもう本人でも分からない。


「私はあなたが好きだよ?」


 そう言って、美しいと彼に褒めてもらった顔をさらに歪めてしまいそうになり、必死に堪えて真昼は弱く言葉を放つ。何度も、何度も口にした言葉は、言葉といっていいのか分からないほど、弱くなっていた。


「ありがとう」


 東陽はそう言って、本心からの、真昼が好きになった向日葵のような笑みを描いた。彼には届かない。

 今まで積み重ねてきたものは、誰にも拭えないし、触れない。

 それに新しいものを継ぎ足す事はできるが、色に色が継ぎ足されるだけ。

 いつかは真っ黒になって、前が見えなくなる。


 言葉の番人が薄く笑って言う。

 2人の黒くなった心を無表情に眺めて。

 これは、よくある事なのだと、無表情にこちらに向かって言う。


「言葉や行動は慎重にどうぞ」



 これは、2人の人間と、


生にも死にも、

善にも悪にも、

天使にも悪魔にも、

聖人にも死神にも成れる者のとの、

ごくごく平凡な、日常の物語。

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