第6話 ポプ4
一方その頃、サロンにてポプ4の面々と、数人の女子生徒は楽しくお茶をしていた。
「ポプメン様、今日も素敵な香りですわ!」
「この飲み物、ポプケル様の味がして、身も心も満たされますわ」
「ポプティン様のポプソング……あっ、耳が……はふぅ……」
「あれ? ポプノルド様は何処にいったのかしら~?」
憧れのポプ4達とのお茶会。彼女たちは今まさに幸せの絶頂にいた。それが、最後の幸せであることも知らずに。
「ポプノルド様~ってあら? 敷地内で誰かがお亡くなりになった?」
6人から少し距離が離れた場所で、ポプノルドを探していた女子生徒がふと窓の外に意識を向けると、1つの魂が天に昇っていくのが見えた。何度見ても、見慣れるものではなく、少女はその光景を眺めてチクリと心を痛めていた。願わくば次の人生に幸あらんことを……と。
「やっぱり下っ端じゃ役に立たないな」
「だが、天然が見つかったのは思わぬ収穫だ」
「そろそろ俺たちも動くか」
談笑中に、何の前触れもなく3人がポツリと呟く。
内容は良く分からないが、この場から去ろうとしていることだけは何となく理解できたため、少女たちは口をそろえて不満を述べた。
「え~、ポプティン様たち何処かに行かれるのですか?」
「もっとゆっくりしましょうよ~」
「私たちよりも大切な用事なのですか~?」
そんな少女たちに対して、3人は柔らかい笑みで答えた。
「大丈夫、君たちはこれからも俺らと一緒だよ」
嫌なものを見たせいだろう。気分が乗らなくなった女子生徒は、今日はもう帰ろうと6人の方を振り返った。それと同時に耳につんざくような悲鳴が響き渡る。
「きゃぁぁぁ、私の鼻が!!」
「いやぁぁぁ、助けて! 体の奥がポつい……ポついわ‼」
「なな、何の音なのですか? や、辞めて、頭が……頭がポ笑しくなりますわぁぁぁ!」
鼻が、身体の先端が、耳がポプリへと変化する少女たち。そして、数秒もたたないうちに物言わぬポプリへと変化した。
「それじゃあいただきますっと」
「ん~、やっぱり恐怖のスパイスが効いたポプリは格別だな」
女子生徒は目の前の光景に思考が追い付かなかった。瞬時にポプリになった友人の少女たち。そして、それを心配するどころか嬉々として口に含むポプ4の面々。彼らは一体なにをやっているのか。彼らは一体何者なのか。
「さて、デザートを戴くとするか」
ポプメンたちは、女子生徒へと目を向けた。その顔は、いつも女子たちが騒ぐような爽やかな面影はなく、その目はポプリで光り、醜い犯罪者ような相貌をしていた。
「ひっ……」
女子生徒は、その嫌悪感により思わず駆け出すも、直ぐに逃げられないと悟った。出入口はポプメン達の後ろにあり、いかに広いサロンといえど、出入口はその一つしかない。それが分かっているためか、ポプメン達は笑みを浮かべながら優雅な足取りで女子生徒へと近づいた。
「君に逃げ場ないよ。安心して俺の体の一部となるがいい」
普段であれば、そんな甘いセリフに頬を朱に染め、心が暖かな気持ちになっていただろう。しかし、今では身も心も寒気がはしり、全身鳥肌がたつだけだ。
「わ、私の身は誰にも渡しません~」
恐怖や絶望よりも嫌悪感が勝った女子生徒は、せめてもの抵抗にと背後の巨大な純金の本棚より分厚い辞書を取り出し、両手で放り投げた。
しかし、思いとは裏腹に、飛距離もなければ狙いとは全く違う方向に飛んで行く辞書。女子生徒の細腕では当然の結果と言えた。
「はは、可愛らしい抵抗じゃないか」
勿論、そんな幼稚な攻撃とも呼べない行為に怯むことなく歩を進めるポプメン。このままいけば、1分もしないうちに女子生徒は少女たちと同じ運命をたどることになるだろう。
「いや、いや……いや~!」
少しでも距離をと女子生徒は後ずさり、本棚へと激突した。
「そんなに怯えられるとちょっと傷つくな……って、くそっ」
あともう少しで女子生徒を捕まえることが出来る距離まで接近していたポプメンは、とっさに地面を蹴り後方に離脱した。
「えっ?」
女子生徒の背後から忍び寄る影、4メートルは優に超える本棚が、女子生徒へ向かって倒れてきていた。
「ポプノルド様~っ!!」
走馬燈であろうか、最後に女子生徒の頭に思い浮かぶのは、自身が恋した一人の少年であった。
(って、ポプ4の3人ともこのような正体だったのですし、ポプのルド様も同じに決まっていますのに……)
ポプメン達は、あましにも大きな衝撃に部屋全体が揺れたような錯覚を覚えた。
「あーあ、ポプメンなんて勿体ないことを」
「死んでしまってはポプリ可出来ないぜ?」
倒れた本棚周囲の床と散乱した書物は、大量の鮮血で染められていた。
「今回のは仕方ないだろ。まあ、学園内にデザートはまだまだあるしいいじゃないか」
「「違いない」」
少し残念に思いつつも、ポプメン達は目的達成のためにサロンを後にした。
ポプメン達が出てから何分経っただろうか。女子生徒は倒れた本棚の真横に立っていた。正確には、誰かに背後から抱きかかえられ、口元を手で覆われていた。
本来であれば、直ぐに身をよじり、その場から抜け出して悲鳴を上げるべき場面であろう。しかし、その何者かのお陰で本棚の下敷きになることもなく、危機を脱することが出来た。
突っ立っているだけなのに、ポプメン達はなぜ自分に気が付かなかったのか、そもそもこの背後にいる人物は一体どこから現れたのか。女子生徒の頭の中は次から次へと起こる出来事に対して、パンクしかけていた。
ただ、そんな状況の中でも一つだけ確かなことがある。この抱かれている状況は悪くないと、こんな絵面にも拘らず心が温まるような感覚を覚えていた。
そう、この感覚はまるで……。
「ポプノルド様~?」
拘束が緩み、口元を覆っていた手が離れると同時に女子生徒は背後を振り返った。
「よく俺だって解ったね」
そこには、何時もの優しい笑みを浮かべたポプノルドの姿があった。
「ポプノルド様~……ポプノルドさまぁ~!!」
この人は、先ほどの3人とは違う。あんな醜い化け物ではなく、自分の憧れている少年だと、女子生徒は様々な感情を落ち着かせるためにもポプノルドの胸に顔を埋めた。
「おっと、君みたいな可憐な女性に胸を貸せるは光栄なんだけど、まずは場所を変えようか。いつやつらが戻ってくるかもわからないからね」
「は、はい、そうですね~」
女子生徒は本当はもっと余韻に浸っておきたいところではあったが、今はそれどころではないと、なんとか自分を戒め、泣く泣くポプノルドから離れた。
「それにしても、なんであの3人は私にかが付かなかったのですか~? それに、ポプノルド様は一体どこから~……」
「おや、俺のファンなのに俺の能力を忘れたのかい?」
「ポプノルド様の能力~……『無数の幻覚を見せるポプリ』でしたっけ~」
「ああ、そうだよ。厳密には『五感を騙すポプリ』だけどね」
五感を騙す、その言葉を聞いて女子生徒はなるほどと納得した。ポプメン達はポプノルドの能力により女子生徒は本棚の下敷きになって死んだと思いこませ、そして、そもそも最初からポプノルドはこの部屋にいたんだと。
よくよく考えれば純金の本棚が、人ひとりがぶつかっただけで倒れるはずもない。ということは、もしかしたら――
「いや、すまない。俺もあの3人があんな化け物だとはつい先ほど知ったんだ。だから君の友人は……」
「いえ~、こちらこそ申し訳ありません~」
女子生徒の表情を見て何が言いたいのか悟ったポプノルドは先回りして答えた。現実はなんとも無常であった。
「あ、そういえば~、場所を変えなきゃですよね~」
「あ、ああ。俺個人の秘密の隠れ部屋があるからいったんそこへ行こうか」
重たい空気を換えようと、少しでも明るい声で女子生徒は話題転換をした。これ幸いにと、ポプノルドもその話に乗っる。
「そういえば、君の名前をちゃんと聞いていなかったね」
「あ、そう言えば~。私の名前はセイラ、セイラ・ポプクリットです~」
「セイラだね、うん、ちゃんと覚えたよ」
「わぁ~光栄です~」
自身の能力で周囲に自分たちの存在を消しながらサロンから離れていくポプノルド達。
そして、彼の能力から解放された後のサロンは、何時もの静寂さを取り戻していた。
どっしりとそびえ立つ純金の本棚、血の跡などどこにも存在しない。数冊だけ本が散乱しているが、それは幻覚ではなかったためだろう。そして、それとは別に先ほどまで存在しなかったものが出現していた。ポプノルドが立っていた真下に広がる黄色い液体と、部屋の中に香る仄かなアンモニア臭。
ポプノルドの能力、『五感を騙すポプリ』。この能力を持っていて本当に良かったと、ポプノルドは心の底から感謝した。
ポプリ学園恋物語 @NurseShop
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ポプリ学園恋物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます