第5話 ポールドの真の力

 2人の世界から現実へと戻ってきたポ華は、少女へと向き直った。


「まさか貴方に助けてもらうことになるとは思いませんでしたわ。その、ありがとうございます」

「ふふ、私は自分のために動いただけ。その子が助かったのはポ華自身の力のおかげよ」

「私の力……ポ機巧少女ポシンドールといいますのね」

「ええ、と言っても私が勝手に名付けているだけだけどね」

「名付けただけですか。私の能力を私よりも把握していて、あの強さ……貴方はいったい何者ですの?」


 ポ華は、少女へ向かって疑問を投げかけた。折角、初めて謝罪の言葉を口にしたのにスルーされるなんてと内心ではガッカリしていたが、それよりも彼女が敵なのか味方なのか、目的は何なのかを知ることが先決であると理解していた。


「そうね、ポウ霊とでも言ったところかし――ちょっと、顔が険しくなってるわよ? いつもの余裕はどうしたの?」

「ふざけているのかしら、冗談を聞いているつもりはないのですけれど」


 少女はいたって真面目に答えていたのだが、ポ華にしてみればワザとそんな対応をされているようにしか思えなかった。少女はやれやれと肩をすくめて、ポ華がギリギリ納得できるであろう答えを伝えた。


「私も冗談を言っているつもりもないのだけど。まあいいわ、私はあいつらの敵よ」

「あいつらの敵……ふん、今はそれさえ分かれば十分ですわ。つまり、貴方と私達は仲間になれるということですわね」

「仲間……ね。ふふ、そうね、それも悪くないかもね。宜しく、ポ華、ポし子」


 少女は不敵に笑みを浮かべた。それは、同性であろうと、ポポロを奪う妖艶な笑みであった。


「こ、こちらこそよろしくてよ。それにしても、貴方とこんなに長く話をしたのは初めてかもしれないわね。その……今まで申し訳ありませんでしたわ!」

「わ、私もごめんなさい。そして、ポ華様を助けてくれてありがとう」

「ん?」


 ポ華とポし子は頬を赤く染めつつ、ここで始めて少女への謝罪の言葉を述べた。しかし、少女からしてみればその謝罪は全く身に覚えのないことであった。


「私、今まで謝られるようなことされた覚えないわよ?」

「な……、ぐぬぬ」

「ポ華様、落ち着いてください。お言葉が変になていますよ!」


 存外眼中になかったと言わんばかりの少女に対して、ポ華はハンカチを噛み締めながら、いつか対等な関係になってやると意気込んだ。


「それよりも、私なんか仲間になっても足を引っ張るだけになりそうな気が……」

「そんなことないですわ! ポし子がいてくれたらそれだけで私の能力は10倍にも100倍にだってなるわ!」

「ポ華様……!」


 ポし子は、自信を死の淵から救ってくれたポ華のことは勿論、実際には目にしていないがあの状況からそんなポ華を救ったという少女の実力は、今まで隠していただけで凄いものだと理解していた。それに比べて自分の力はポールドのみ。自分さえ守れないのに他の人を守ることなんてとても出来ないと、自身の力に落胆していた。

 しかし、そんなポし子をポ華は激励する。ポし子がそばにいる限り自分は負けないと。ポし子は嬉しい反面、本来であれば守る力を有するはずの自身が、ポ華に守られる結果になるということにやはり納得することが出来なかった。だからこそ、ポ華に追いつけるように努力を重ねようと決意した。そして、それでも無理ならばいざという時は自分自身が肉盾となろうと。


「あら、まだ気が付いてなかったの? ポし子も本当の力に目覚めていないだけよ」

「私の本当の力?」

「ええ、そもそも普通なら――」


 少女は足を引っ張られるような無能を仲間にするつもりは微塵もなかった。そのため、ポし子に早く戦力になってもらえるように助言しようとしたところでその動きを硬直させた。そして、その姿は次第に物言わぬポプリへと変化していった。


「ポヌケめ! こんな場所で仲良くおしゃべりとは油断したなポプリ!」


 少女の背後から、一つ目のポプリが姿を現した。その身を包む服装から、ポプリ学園の学生であることが窺い知れる。先ほどのポ華みたいに腕だけではない。それは、完全体となったポプリ星人であった。


「普段から隙が無かったが、戦いの後と初めてのお仲間ということで油断したポプリ? どのみち、ポ眼保持者の俺の敵ではなかったポプリ」


 ポ眼……それは生身の人間を強制的にポプリ化させる、無色・無音・無臭の光線を放つことが出来る。それを防ぐ術は、光線を放たれる前に術者を倒すしかなかったが、少女はその気配に気づくことが出来ずに背後をとられ、先手を打たれていた。


「えっ……」

「そんな……」


 あの少女があっさりやられたことに、二人は驚きを隠せなかった。そんな彼女たちをポプリ成人はあざ笑う。


「ポ~プポプポプポプ、あれさえ倒せれば俺たちの勝利は間違いないポプリ。残ったのは力を使い果たしたガラクタと、役立たずのみポプリ」

「そんな、ポ華様お力が……?」

「ええ、悔しいことに事実ですわ。どうやらポし子を助けたあの能力は莫大なポプリ力が必要で、しばらくは能力が使えないのですわ……」


 大きな力には代償がつきものである。ポ華のポライドが彼女をなんとか支えているだけで、その疲労から本当は歩くのも辛かった。そして、そんな状況にさらなる追い打ちをかける様に、周囲に無数のポプリ星人が現れた。近場だけではない。もしものためにと遠くの建物にもポプリ星人が現れており、その数20人を優に超えていた。


「俺の力ではガラクタ処理が出来ないから、仲間たちに任せるポプリ。超ポン磁砲軍団、その体を無数の金属片にしてやるポプリ」


 超ポン磁砲、それは軍でも使用される最終ポ壊兵器であり、それから放たれたポプリは山をも貫通する威力を有すると言われている。


「最後の慈悲で話す時間を確保してやってもいいポプリが、もしもということがあっても困るポプリ。だから少しの時間も与えないポプリ」


 そういってポプリ星人は片腕をぴんと伸ばした。


「ジャンクになれポプリ」


 その片腕が振り下ろされた瞬間、砲身から灰色に煌めく閃光が迸り、無数の砲弾がポ華とポし子へと迫っていた。360度から飛来するそれから逃れる術は最早存在しない。


(今のままでは肉壁としても役に立たない。このままではポ華様がポロされてしまう‼)


 そんな刹那の瞬間、ポし子は脳が焼き切れんばかりに思考が加速されていた。


(私にできることならなんだってやってやる。例えそれが地獄に落ちることであろうと、天使のようなポ華様を守れるのなら構わない)


 ポし子は気が付いていなかったが、今の彼女の眼には全てがスローモーションに見えている。


(あの人は私にも力が隠されていると言っていた。今、その力を解放せずしていつ開放するのか)


 ポプリ星人は全てが終わったと思っていた。誰も倒せなかった少女を自分が打ち倒すことができた。普通の人間にはこの状況をひっくり返せるなんて不可能だと、思わず口角が上がる。そんな慢心が、この場の勝敗を決した。ポプリ星人は気が付かなかった。ポし子の瞳に映る黒い羽根に……。


「我、ポ宝を守護する者。地へポちようとも己の責務を全うせん。全てをポプれ『暗ポプシールド‼』」


 同時に全ての攻撃が二人に着弾し、その衝撃で砂埃が舞った。


「ポプポプ‼ これで俺も出世間違いないポプ……リ?」


 そこでようやくポプリ星人は気が付いた。全ての攻撃が着弾したのにで終わるはずがないと。本来であれば轟音が鳴り響き、地は抉り取られていたはずだと。

 それから数秒もしないうちに砂埃が晴れ、ポプリ星人は目を疑った。そこには、四方を無数の盾で囲まれたかすり傷一つもない少女たちの姿があった。


「そんな馬鹿なことがあるわけないポプリ! 皆、もう一度ポプリ‼」

「皆って誰のことを言っているのかしら?」


 ポプリ星人の言葉に答えたのは彼の仲間ではなかった。全身から嫌な汗が滝のように流れでる。その声の主は、自身がポプリにしたはずの少女であった。


「ななな、なぜお前が生きているポプリ!?」

「ちょっと、質問に質問で返さないでくれるかしら? でも、今日は気分がいいから許してあげるわ。そして、答えを教えてあげる。生身の人間にしか効かない技が本当に私に通じるとでも思った?」


 少女は馬鹿にしたように片手で口元を抑えてくすくすと笑った。

 

「やっぱりやられた振りだったんですね‼‼」

「でも、お陰で貴方は力が発揮できたでしょ?」


 少し怒気を含むポし子に対し、少女は悪びれた様子もなく返した。


「こうなったら3人まとめて葬ってやるだけポプリ!」


 ポプリ星人はその場を飛びのき、再度周囲へ目配せをした。しかし、その視線の先に自身の思い描くものは存在していなかった。


「だからどうやってかしら? あなたのお仲間は彼女の力で全てポプリされたわよ?」

「全員ポプリされた……だとポプリ?」


 ポプリ星人には最早理解が及ばなかった。そして、まだ気が付いていなかった。


「そして、勿論も貴方も……ね」


 ポプリ星人が改めて自身の体を見下ろすと、既にポプリされていた。


「嫌だ……ポプリ」


 今更気が付いてももう遅い……ポプリは既にポプリされ、ポプリが開始されておりポプリであった。


「嫌ポプ! いやポプ! ポプポプポプー‼」


 断末魔が鳴り響き、ポプリ星人は完全にポプリした。

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