第3話 ポプリ星人
タカシは目の前の光景を理解することが出来ずにいた。
人とは造形が完全に異なる異形の化け物。全身がポプリで形成されたその生き物こそが、タカシが少女に見せた物であった。
なのにも拘わらず、少女は気にする様子は全く見受けられない。
少女がポプ星人のことを知っているだけならタカシはまだ理解できた。もしかしたら少女のことだからそれ位の情報は収集していてもおかしくないと考えていたためだ。しかし、ポプ星人の存在を知って尚、嫌悪の感情ではなく、まるで恋する乙女の様な表情をする少女のことは理解できなかった。
「ポ、ポプ星人のことを知っていたんだな」
「知っているも何も……ん~、それでタカシ君はポプ星人を捕まえてポプって、その力を自分のポのにしたと。なかなかやるわね?」
タカシは、内心の動揺を表に出さないよう平静を装い少女に問いかける。しかし、少女は答えをはぐらかし、そんな事よりも重大な爆弾をタカシに投げかけた。
「な、なんでそれを!?」
「ふふふ、私は何でもポ見通しよ」
「まさか、君も俺と同じように……」
まさか的確に自身の能力の根源を当てられるとは、タカシは思いもしなかった。だからポプ星人のこんな姿も気にならなかったのかと。学園の他の連中と違うように感じたのかと、タカシは無理やり納得しよう努力する。
「あら、違うわよ?」
「えっ?」
しかし、そんなタカシの努力をあざ笑うかのように少女は否定した。
「で、タカシ君はこれからどうしたいの?」
「え、あ、俺は……」
思考が、未だに理解が追い付かないタカシであったが、頭を整理する時間を確保するためにも取り合えず話を少女に合わせた。
「俺は、このままもう少しポプ星人をポプって、力を自分の物にしたらこの惑星に存在するポプ星人を全て消滅させるつもりだ。そうすれば、皆のポプ脳も溶けて真の平和が訪れるはずだ」
「ふふふ、それはとても殊勝な事ね。応援してあげるわ――って言ってあげたいところだけど、もうそろそろ手遅れのようね」
「それはどういう……」
タカシは、少なからず少女もポプリ星人に敵対する者であると感じていた。だからこそ、味方に引きずり込めると踏んでこの話をしていた。しかし、会話の内容からどうもこちら側に着く様子は見受けられない。
敵の敵は味方というわけではないのかと。所詮少女も危機感が薄い、不気味なだけの人間であったのかと。そこまで考えて、ふと少女の顔に視線を向けた瞬間、タカシは全身に悪寒を感じた。
あのポプリ星人に向けられていた顔を、タカシに向けていたためだ。
「あらあらあら、気がついていないようだから最後に教えてあげるわ。あなた、背中からポプリが生えているわよ?」
「えっ……」
タカシはとっさに顔を後ろに向ける。すると、自身の背中にいつの間にか灰色のポプリがにょきにょきと生えてきていた。
「わっ、な、なんだこれ! とれろ! とれろとれろ‼」
タカシは少女の存在も忘れて、必死にそれを引っこ抜こうと引っ張る。しかし、うんともすんとも言えず、自身の力では引っこ抜けそうもなかった。それならと、壁に背中を激突させて押しつぶそうとするも、反発して壁から押し返されるだけだ。
「くそっ、くそくそくそくそ!」
そうこう格闘しているうちに、ポプリは背中から徐々にタカシの体全体を侵食していく。
そんな様子を見て少女は微笑みながら口を開いた。
「あなたは一つ勘違いをしているわ。まず、ポプリ星人は人間のなれの果ての姿なの。本当の敵は、貴方が能力と思いポプって取り込んだ物……ポ成虫よ」
少女はカツカツと靴音を鳴らしながらゆっくりタカシに近づいた。
「つまり、あなたは気が付かないうちに自信を乗っ取られていたのよ。自身でポ成虫の宿主となるなんて……知らなかったとはいえ軽率なことをしたわね。それに無理やり取り込んだせいかしら? もう切り離すことも困難だわ」
少女は雄弁に語るも、もうタカシには聞いている余裕が全く無かった。
「そして、もう一つ。別に皆がポプリに洗脳されているわけではないのよね。ってもう聞こえてないわね」
「いやだいやだいやだいyリポプリポプリ……」
既に少年の前身はポプリに侵され、立派なポプリ星人へと変貌していた。それでも構わず少女は言葉を続ける。
「あ、そうそう、なんで私がポプリ星人を知っているかだったわね? だって奴らは私から大切なものを奪った憎き敵だもの。でもね、最近思うの、今ではポプリ星人を前にすると胸が高鳴るの。ああ、やっと出会えた! 私が追い求めていたものにって。これってもう『恋』と言っても良いのではないかしら?」
「ポプリッ」
少女はもう既に狂っていたのかもしれない。そのあまりのオーラにポプリ星人は一時離脱しようとポ空間転移を発動する。
「あら、話している途中なのに逃げるなんて……ポッ縮」
「ポキャッ」
そしてポ空間ごと、小さく圧縮された。もはやポプリ星人に成す術はない。
「最後にタカシ君に教えてあげるわ。ポプリ星人……ポ成虫はポ酸で完全に消化すれば奴らの力だけ効率的に取り込むことが出来るのよ」
手のひらに収まるサイズまで圧縮されたポプリを、親指と人差し指でつまみ大きく口を開ける。
「それではタカシ君ポプげんよう。ポ久に眠りなさい。いポポきます。あ~む」
そうして少女はそれをゴクリと丸呑みした。
場所は変わってポプリ学園放課後、その裏庭に2人の少女が佇んでいた。そのうちの一人、ポし子の片腕から赤い鮮血がダラダラと流れる。
「ポ華様!どうしちゃったんですかポ華様‼」
「わ、私にも分からないわよ‼ なんなんですのこれ……なんなんですのよこの腕は‼」
ポ華のスラリとしたポつくしい右腕が、今では真っ赤なポプリに変貌していた……。
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