第2話 タカシ

 あぁ、神様は何て残酷なのだろうか。憧れどころか、寧ろ関わりたくないと思っているのに何故あちらから声をかけてくるのか。少女の今の心情を表現するのなら、正にポプっ淵に立たされている状態が最も近い。


「おっと、そこの彼女。制服が汚れているけどどうしたんだい?」


 ポプ4のリーダー格である、ポプノルドが少女に近づき声をかける。


「どうせ、いつも通り誰かから嫌がらせでも受けたんだろ。ポポロが狭いやつはこれだから……。ほら、フローラルな香りで癒されな」

「お前らも物好きだよな。ま、気持ちは分からんでもないが。ほら、トンポツスープでも飲むか?」

「俺たちに媚びたりせずに普通に接してくれる女子なんて他にいないしな。ふっ、特別にポプソング聴かせてやるよ」


 ポプメン、ポプケル、ポプティンも後に続き、少女へ声をかける。

 普通の女子であれば卒倒ものであり、あまりの幸福に天に召される思いだろう。しかし少女は、お前らのせいだよと内心で毒を吐かざるおえなかった。案の定、周囲は嫉妬と憎悪の視線が少女に集まり、少女の平穏に暮らしたいという思いは叶いそうにない。


 流石の少女も、善意で声をかけてくれた相手に対し邪険に扱うのは気が引けるため、どのように対応しようかと0.01秒熟考する。そして、悪気の無い善意こそ厄介なものはないと答を導きだした。


「ええ、お察しの通り貴方たちが私に絡んでくるせいで困っています。ですので話しかけないで頂けると助かります」


 あまりの発言に、ポプ4含む周囲の時間が停止した。


「それに、香水系の匂いとか苦手なので近づかないで頂きたいです。それに、ポプリで出汁をとるとか意味不明過ぎて気持ち悪いですし、旧人類のアニソン派なので。それでは失礼します」


 周囲が動かないことをいいことに、少女は言いたいことを言い切り、すたすたとその場を後にする。


 少女の姿が消えると、周囲は次第に静寂からざわめきに変わり、怒号が飛び交い始めた。


「あいつ何様のつもりよ!」

「ポプ4の方々に対してあれは許されないわ!」

「ポロしてやるっ……。捕まえてポプポプしてやるっ!」

「そうだ! 捕まえないと!! 皆であの糞女を取っ捕まえるぞ!!」

「「おぉー!!」」


 集団心理とは恐ろしい。1人だと、流石にこれ以上は……といったことでも容易に実行することができる。この日より、少女は全生徒の獲物と化した。


 周囲が少女を追いかけて去るなか、ポプ4の面々はポツリと呟いていた。


「ふっ、益々興味深い女だな」

「最終的には困ったら俺たちを頼らざるおえないだろう。その時は優しく香り漬けにして、あの女の香りをゲットしてやる」

「あぁ、いい! あの蔑んだ目がたまらない! 彼女で出汁をとったらどれだけ美味しいのだろうか……」

「あの罵倒が最高すぎる! 彼女の声は正にポ天使の声!!今日も録音バッチリだぜ!」


 他の生徒たちとは違い、あれだけ拒絶されても彼らは気にしなかった。寧ろそんな態度の彼女に好感を持ってさえいた。そして、ポプノルド以外は変態しかいなかった……。


「どこにいった!?」

「あっちにはいなかったわ!」


 学園内をくまなく探索され、出入り口は既に固められている。これからどうしようかと、少女は上から自分を探す生徒たちを見下ろしていた。

 生徒の姿が消えると、貼り付いていた天井からスタッと音もなく着地する。


「おい、こっちだ」

「誰!?」


 誰もいないはずの場所、自分の真後ろから声をかけられ少女は驚愕した。咄嗟に振り返るも、やはりそこには誰もいない。


「いえ、そこにいますね?」


 少女が目にポプ力を集中させて見ると、空間が微かに揺らいでいるのが分かった。


「流石だな、これを見破るなんて。やはりお前は他の生徒とは違うようだな」


 空間の揺らぎは次第に大きくなり、突如少女の目の前に灰色の空間が現れた。


「貴方のそれはポ空間転送ね」

「ほう、そこまで知っているか」

「なんの用事かわからないけど、今日はもう授業はなさそうよ? 転校生のタカシ君」


 ポ空間から現れた男、タカシに向かって少女は笑いかけた。


「くそー!どこ行きやがったんだ!!」


 そんなやり取りをしていると、再び少女たちがいるところに声が近づいてくる。


「ここでは静かに話も出来そうにないな。ちょっと場所を変えないか?」

「ええ、そうね。それではポスコートをお願いできるかしら?」

「了解だ、お嬢さん」


 そうして少女たちは学園から姿を消した。



 少女たちが再び現れたのは、広い0畳ほどの部屋だった。至るところに様々な電子機器や器具がおかれている。そして、部屋の隅には布で覆われた何かがあった。恐らくここが、男、タカシの拠点なのであろう。


「何から話せばいいかな。学園での様々な人間を観察していて、君ならば話すに値すると思ったんだ」


 タカシはポ茶を用意した後、少女と対面に座り、先程までとは違い真剣な口調で話始めた。


「世界中の人間は気がついていないんだ。この世が未曾有の危機にさらされていることを」

「なるほどね、それで?」

「うーん、ここからは話すよりも見てもらった方が早いだろう」


 タカシは布で覆われた物の前まで行き、一呼吸をおいてバサリと布をとる。そして、布の下からはその生物が姿を現した。


「未曾有の危機、それはこいつら、宇宙からの侵略者だ」


 タカシは緊張した面持ちで少女の反応を見る。普通の女なら悲鳴をあげるか、最悪卒倒しても可笑しくはない。果たして少女の反応は──。


「あぁ、何かと思えば。ポプ星人のことね」


 これまでしてきた中でも最高の笑顔をもって、少女は彼に答えた。

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