第4話 ②ー① メドゥーサ

 朝から降っている雨は、夕方に差し掛かっても止みそうにない。

 しとしとしとしと。七月も半ばだというのに、寒いくらい涼しい。

 まあ、このくらいの気温の方が、過ごしやすくていいが。

 今日は土曜日、休日。片づけが終わった部屋で、考える。

 ……美樹は一体、俺のどこが気に入ったんだろう?

 美樹とはよく食事に行く仲になった。付き合っているのかと言われたら、キスはおろか、手も握った事はない。が、美樹は俺に異性として好意があるのは、先日ホルモン屋で呑んだ時の台詞から伺える。

 進展の遅いのはいい。僕は地味な奥手だから。ゆっくりでいい。

 それに、向こうも焦ってどうこうってのは無さそうだ。そういう色気のあるそぶりは何も見せない。

 実は、今日は今から美樹が部屋に来る予定になっているのだが、初めてではない。外に呑みにいった後に、何度か部屋に寄っている。

 それで、雑談したり、何となくテレビを観たりして、酔いが冷めたら帰っていく。

 意識しすぎる事のない関係で結構なのだが、物足りなくもある。だけど、『美人過ぎる彼女』に気後れしているのも事実で。

 ホント、何で美樹は僕を選んだんだろう?


   〇


 パチパチパチ……


 ジュワジュワジュワ……


 台所から、唐揚げを揚げる音が聞こえる。

 初めは音高く、だんだん落ち着いてきて、そこに、美樹の鼻歌とか聞こえてきたりして。

 俺は、頃合いを見て、出来合いの総菜を並べたり、刻み野菜を皿に盛ったりする。

 雨が続くので、今日は中食。宅呑みって奴。


『カンパーイ』

 声をハモらせて、グラスを当てる。この如何にも自分たちだけっていう感じが、宅呑みの醍醐味だろう。

 軽くビールを一口飲んだ次、僕はリクエストした鶏の唐揚げにかぶり着く。

 弾力のある肉を噛むと、甘い脂がじゅわっと出て、そこにビールを追っかける。

「おいしい?」

「うん。めちゃくちゃ美味い」

「良かった。久しぶりに作ったから、自信が無くて。

 たまに食べたくなるんだけど、独りだと、少ししか食べないから、作るの敬遠しちゃうのよね」

 そう言って、美樹も唐揚げを箸に取った。

 赤い唇が開く。唐揚げの先端だけを口に含んで、噛み切る。揚げたてなので、熱さを警戒したんだろう。数度咀嚼して、飲み込んだ。

「うん、おいしい」

 と言って、顔を綻ばせる。

 とりあえず、食う事が好きだというのは、僕たちに共通した部分だろうな。


 

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