第3話 ①ー③ 心臓を食べたい

 二杯目のジョッキを空けた頃、酔いが照れを上回った。

 饒舌になった僕は、美樹の事で色々と質問をした。

「どこに住んでいるのか?」、「休みの日は何をしているのか?」、「趣味は?」などなど。

 おそらく、あの工場の男子で、彼女の私的な事をこれだけ尋ねたのは僕だけだろう。

 僕の質問に答える彼女も、よそよそしさは消えていた。ほんの少し、頬に紅が入っている。彼女もまた、酔っているのだろう。

 意外にも、僕たちはすんなり打ち解けた。

 いや、彼女は僕の事をどこか気に入ったから店に誘ったんだろうし、意外と思っているのは僕だけかな。

 ちなみに、美樹は僕の住んでいるアパートの近所に一人暮らししているらしい。友人はおらず、特段これといった趣味もなく、休みは暇しているらしい。

「だから、また食事に付き合ってくれたら、嬉しいな」

 やや上ずった声で言って、美樹はチューハイを一口飲んだ。

 そして、チラリと僕を見る。

 僕の答えはもちろん、YESだ。


   *


 駅のホームにあるベンチに僕たちは座った。

 身体が火照ったように熱いのは、初夏の暑さでも酔いからでもなく、わずかに触れている美樹の二の腕のせいだろう。

 さっきから、異常なくらいに胸が高鳴っている。だってそうだろう。ずっと高嶺の花だと思っていた女性とサシ呑みして、しかも意気投合したんだから。

 ふと、美樹はぽつりと言った。

「おばあちゃんに聞いた話。

 沖縄のある地域では、死んだ人を食べるの。愛しい人を我が身に取り込むために」

 別の意味でドキッとして僕は美樹を見る。

 彼女の横顔が、月の光で蒼く、白く映し出されている。

「それが、いつからか、豚肉を食べるようになった。

 今日私があなたを誘ったのは、愛しい人のハートを取り込みたかったから」

 言い終えると美樹は俯いて、目を閉じた。

 もう、寝息を立てている。

『やっぱり、少し変わった人だよな』

 心の中で独り言ちると、僕は電車が来るまで寝させてやる事にした。

 そうしないと、彼女が困るだろうから。

 僕は見たんだ。透き通るように白い彼女の頬が、尋常じゃないくらいに赤く染まっている事を、ね。

 

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