88話 都市魔法よ、打ち寄せる敵を屠れ。
ノインの修久利の技でなんとか黒針を屠り、一息を着いた瞬間に、その黒き杭が落ちてきた。黒母が防壁外郭に突き刺さり、黒母の表皮から豪雨のごとくに黒針が降り注いできた。
「黒母だっ! 都市魔法はまだなの? これじゃあ、数が多すぎるよお」
ミケは第二層に入ったばかりの実存強度しかなく、この実存強度では黒母を倒すことはできない。思わず制御式を編むミケの手が震えてしまう。でも、ここで怖気づいてなどいられない! ミケの遥か頭上高くでは、ココ様が戦っているのだ。早くこの場を片づけて、聖霊の
ミケの力では領域魔法を編むことはできない。だから、自分が使える最強の高位魔術を黒母にぶつけ続ける。それでも、黒母の表皮を焦がす程度で、ダメージが通ることはなかった。
「くそったれええええ!!!」
ミケが彼女の周囲に群がる黒母を高位魔術で消滅させる。だが、黒母を倒さなければ黒針の出現は止まらない。
「ミケ、泣き言はまだ早い。そもそも敵というのは、こちらの準備を待って来襲するものではないのだ」
「え? ランドウ? 第三層から帰ってきたんだあー!」
ニベの大剣を持つ
「遅くなったようだが、作戦には間に合ったようだ。それと、そこの少年、なかなかの奮闘ぶりだな」
黒針相手に奮闘している少年に、ランドウはねぎらいの言葉を掛けてからミケを振り返る。
「ミケ。お前の方が先輩であるのだ。いくら実存強度が不足しているとしても、もっと良い立ち回り方があったのではないか? お前はもっと頭を使う方法を考えるべき―――」
「あー! ランドウの実存強度上がってんじゃん。幻王魂を手に入れたんならさ、あたしに出すもん出してほしいんだけど。ほら、私の実存強度を上げるには妖玉が必要じゃん。はい、ランドウ、早くちょーだい!」
そう言ってミケは両手を差し出して、瞳をうるうるさせている。
「妖玉などない。良いか、ミケ。実存強度をいくら上げたとしても、自分で戦闘を繰り返して手に入れなければ、頭の使い方を覚えぬのだ。だから、ミケ。お前はこの戦いを自らの糧として学ぶのだ。それから、ノイン君といったな。俺たちはこれから黒母を含む黒針を指定地点への誘導を行う。客人であるノイン君に、無礼を承知で申し上げるが、どうか俺たちの加勢をして頂きたい」
ランドウはノインが今しがたに使った修久利の剣技を思い起こす。まだ粗はあれど、修久利の剣技である
「ええ、僕に出来ることなら何でもします」
「よし。ならば、黒針と戦いつつ、都市魔法の迎撃ルートに誘いだすのだ」
ランドウは大剣を握りしめ、周囲で奮闘する者達に檄を飛ばした。
◇
自由都市エーベの中心核。その中心結晶石に幾つもの制御式が展開され、淡く輝きだしていた。
「都市魔法の準備が整いました。ネキア様、いつでも発射可能です」
制御式を統括する配下の一人がネキアに都市魔法のエーテル充填が終わったことを報告する。ネキアは頷き、視線を索敵魔術陣の敵光点に移動させる。先程のリヴィアタンが放った領域魔法と聖霊の愛子の領域魔法によって黒魔術師が率いる黒母と黒針の大半が消え去っていた。残るは無傷のまま残っている黒魔術師の軍団と黒針を生み出す黒母。すでに都市魔法と索敵魔術陣との連結は完了している。ならば―――、
「黒母を完全に消し去ります。都市魔法の照準を全ての黒母に合わせなさい」
そのネキアの指示を聞いた配下が都市魔法の制御式に照準を入力し、それと連動するかのように自動的に都市魔法を紡ぐ制御式が変化していく。「いつでも発射可能です」その言葉を受けて、ネキアが片手を上げ、作戦区域に集まっている黒針と黒母を見やった。「どうやらランドウはいい仕事をしたようね」都市魔法の射線上に多く集まる光点をみて口の端をあげた。
「撃て」
その言葉が吐き出された瞬間に、都市魔法が稼働した。索敵魔法陣によって攻撃対象となった全ての黒母に対して、数十万本もの光の奔流が撃ち出されていく。すべての光線が収束し、索敵魔術陣にはそれでも数千の光点が残っていた。
「全て命中しました。ですが、巨大黒母は未だに現存しています」
ネキアはその結果を聞いて、さらに指示を出していく。
「都市魔法の一部を都市防壁の強化にまわして。これから黒魔術師がやってくるわ。それにリヴィアタンと弥覇竜との戦いが本格化します。それに耐えなくてはなりません。残った黒母については、都市魔法によって削り続ければ倒し切れる」
ネキアは疑似系譜を開き、ランドウに繋ぐ。黒魔術師を相手をするにはランドウを筆頭にした部隊の編成が必要だ。
今のところは黒魔術師たちからの攻撃らしい攻撃はない。それがとても不気味にネキアには感じられていた。黒魔術師の目的は聖霊を駆逐すること。そうであれば、リヴィアタンを滅することが彼らにとって大きな躍進となることは疑い無い。弥覇竜を手に入れたことで、短時間の間にここまでの大部隊を編成したというのか。黒魔術師の個としての力も侮りがたいが、組織としてもその堅牢さに改めて愕然とする。
「この人数の投入はリヴィアタンの討滅を目的としているのは事実。そして聖霊の愛子を手に入れることね。私の浮島はさながらエーテル補給地といったところかしら」
精霊の愛子の魂を使うことで、どれだけの黒魔術師が『災呪の穢れ』に到達することだろう。おそらく、現在侵攻してきている黒魔術師のすべてを成らせることは十分に可能かもしれない。そう思い、ぞっとするネキアは今一度索敵魔法陣に索敵を促した。集中しなければならない。どんなささいな事から戦況が大きく変わってしまうことは十分に考えられるのだから。それに索敵魔術陣の端に映る幾つかの光点を見やる。他の天異界の者たちも、この戦いに注視し、幾つかの斥候隊を都市エーベの状況を遥か後方で補足しているのだ。ネキアはふうと大きく息をつき、そして再び都市魔法を撃ち放つ準備を急がせるのだった。
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