81話 進むべき道。己のが魂を糧にして。
砕け散った飛空艇の残骸のなかで、ココは皆を見渡す。
「ユリちゃんは私たちの家族だっ! ユリちゃんを絶対に黒魔術師の道具になんてやさせやしない。彼女を輪廻に。黒魔術師から囚われた全ての命を輪廻に還すんだ!!」
ココは宣すると、空に領域魔法の制御式を描き始めた。
そのココの姿を見つめリヴィアは呟く。「確かに魂を輪廻に還すことは、新たな生命の芽吹きをもたらす生命循環を意味するものじゃ。それは、ユリの魂にとって限りない休息と安寧を彼女に与えるじゃろう」と。だが、ユリの守り目が潰えたということは
と、リヴィアは何気なくペルンを見やる。彼の修久利であっても
リヴィアはその光景に絶句してしまう。
「ペルン? まさか、まさか、お主は」
ペルンはノインの残っていた腕の付け根―――二の腕部分を掴み、自らの心臓にあてがっていた。その様を見てリヴィアは声を荒げ、すぐに制止しようと駆け寄る。
「ダメじゃ! ペルン。それだけはダメじゃ。あってはならんっ! ノインの、悪霊の連樹子を自らに使ってはならぬ。連樹子を使えば、お主は輪廻に戻ることが出来ぬのだぞっ! お主の魂はこの世界から引き剥がされ、悪霊の世界に喰われて消滅してしまうのじゃぞ!!」
「ユリが待ってんだべ。俺が行かなくてどうするよ」
それを聞いてノインは連樹子の作動を止め、あわてて問いかけた。
「ペルン師匠、どういうことですか? 教えてください」
「ノイン。正しき事とは何だ?」
「え?」
「輪廻なんて関係ねえ。自分の魂が砕け散ようとも、ユリを助けること。それこそが突き通すべき道だべ」
「‥‥‥師匠、わかりました。僕もこの正しき道を歩み続けます」
ノインが再び連樹子を編み始めたのを見て、リヴィアが声にならない声を上げた。ペルンが片手を上げて、リヴィアに来るなと彼女を制する。既にノインの連樹子がペルンの心臓を食い破るように突き刺さっていっているのだから。「リヴィア、それ以上近づくんじゃねえ。てめえも連樹子に喰われっぞ」そう言って、ペルンは優しくリヴィアに微笑むのだった。
「悪りぃな、リヴィア。六律系譜の守護者の役目を踏みにじってしまったべよ」
「‥‥‥それほどまでにユリが大事か?」
「ああ」
「そうか。ならば、吾は何も言うまい」
正視に耐えられないとリヴィアは目を背けた。ペルンは「ありがとよ」と声をこぼし、それからノインに向かって言う。
「ノイン。てめえの大事なもんは何だ?」
「ココです。ココ以外には考えられません」
淀みなく答えるノインに思わずペルンは口端をにやりと上げる。「良い応えだぜ、ネギ坊主」ペルンはノインの頭を無造作にガシガシと撫でて言うのだ。
「男なら、てめえの大事なもんは全てを懸けて守るもんだ。それを忘れるんでねえべよ」
ノインの連樹子がペルンの胸の中に消えていく。ペルンが修久利の剣技を使うたびに連樹子が作動し、彼の魂をエーテルに変えていくだろう。
ペルンは苦虫を噛み潰したような顔をしているリヴィアに力強く声を掛ける。
「リヴィア、あとのことは俺に任せろ。だから、ココとノインを頼むべ」
「分かったのじゃ」
「おいおい、ウナギが難しい顔しやがって。いつもの不敵な笑みはどうしたべよ?」
「吾を
リヴィアの言葉が終わるのと同時に、彼らに大きな影が落ちる。空を見上げればココの飛空艇が無人飛行でココたちの頭上に姿を見せて来ていた。その飛空艇の影と入れ違う様にペルンは歩き出す。「んじゃ、行ってくるべ」そう言い残して、ペルンは都市エーベの入口に向かって行ってしまうのだった。
轟音が響く。
ちょうど、船ちゃん3号とココが描いた制御式が重なりココの領域魔法が開始されたのだ。「よし!」とココは手に力を込めて、制御式を操る。
「リヴィアちゃん、お願いがある。私の魔動器に力を貸してほしい!」
真剣な眼差しでココはリヴィアを呼ぶ。
「よかろう。吾にできることなら何でもしようぞ」
聖霊の愛子であるココが求めるのだ。その願いを叶えることに何の躊躇いがあるだろうか。リヴィアはココが指し示す空に編まれた制御式を見やった。
「あの制御式にエーテルを注いで!制御式が稼働するまで、いっぱいエーテルを注ぐの。それで私の魔動器が稼働するから」
リヴィアは両手を頭上に掲げて、自らが有する甚大なエーテルをココが描いた制御式に与えていく。すぐに充填されると思っていたが、その制御式は貪欲にリヴィアのエーテルを吸い続けていく。その量はもはや天異界2層・『選別の都』に属する者たちが有するエーテル量を軽く超える規模だ。リヴィアの横から固唾をのんで見ているココに気付き、彼女は口角を上げた。
「ココ。よい制御式じゃ。これほどのエーテル量を与えても自壊もせずに、領域魔法の始発を調えておる。どのような領域魔法であるか楽しみだ。さあ、限界までエーテルを込めようぞ」
その瞬間に制御式が稼働を始めた。ココの飛空艇と重なり合う様にして編まれていた制御式が、その術式で飛空艇を包み込み分解していく。光の粒子となった飛空艇のパーツが新たに組み合わさっていき、一つの白き魔動杖に姿を凝縮させていく。その純白の魔動杖が淡い光を泡のように輝かせて、ココの手元にゆっくりと吸い込まれるように落ちていく。
ココが手にした白き魔動杖。その杖には莫大なエーテルが内包されていることが誰の目にも明らかだった。
「あのっ! すみません!」
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