82話 唸れ、魔動器。戦いのときは今。
通りに散らばっている瓦礫の山間から、おずおずとミケが緊張しながら一礼をしていた。
ミケはココ達を見渡して、そしてリヴィアの顔色を伺ってからココを見つめる。最初見たときは分からなかったが、そのエーテルの仔細を凝視してみれば、確かにその新奥から聖霊の純粋な鼓動を感じ取ることが出来た。「聖霊の愛子―――本当に、原初の聖霊様がいらっしゃる。千年の昔に最後の愛子が黒魔術師から喰われてしまったと思っていました」惚けたようにミケは脱力して、そのまま地面にへたり込んでしまった。
「本当に、本当にご健在で何よりでございます。
そして、涙が溢れていく瞳でじっとココを見つめた。あまりの感動に感情が込み上げてくるが、自分の任務を思い出して続ける。
「
「うん。分かった」
ココがミケの提案を受け入れ、ココたちの準備が済んだ後にネキアが待つ浮島中枢に向かうことを約束した。ミケはその返答をネキアに持ち帰り、都市エーベの黒魔術迎撃の準備を始めるという。
ペルンの決意にココがようやく納得をし始めた頃、自由都市エーベに魔術防壁が張り巡らされていく。
都市魔法だ。
各主要な浮島には、浮島の中心エーテル核を用いた都市魔法がそれぞれに備え付けられている。ネキアが支配する浮島には防御用と迎撃用の2種類の都市魔法があるはず。リヴィアは視線を都市防壁から、足元の飛空艇の残骸に目を落とした。
ソラの飛空艇―――舟羽の残骸がココの魔動器群によって道路の両端に片づけられていた。燻る残骸には黒魔術師の気配が残っていることにリヴィアは眉をひそめる。ノインが亜空を飛行する為に使い潰した黒魔術師達、その存在を喰われた末期の残滓がリヴィアの神経を逆撫でている。「連樹子をここまで操るか、ノイン―――いや、悪霊よ。しかし、それがココの従者になっているとは本当に運命とは恐ろしいものじゃ」
リヴィアは瓦礫の山を見上げて、大きく息を吐いた。「全く難儀なことを押し付けおって」と、都市エーベの玄関口に向かったペルンに
「準備は完了だよ。ノインちゃんの腕はキチンと接続出来たからね! 素材採取で必要素材も揃ったからね。完璧な腕なのです。ただペルンちゃんの腕は義手のままなのが心配なんだけど。でも、ペルンちゃんのこと信じてるから、きっと大丈夫だもん。私も頑張らないと。ほら、魔動杖も問題なく稼働しているし、いつでも戦えるぞ!」
ソラの店奥からココが出てきて、手に持っている背丈ほどの白き魔動杖を掲げてみせる。その魔動杖を力強く握りしめるココに、リヴィアは片膝をついて目線を合わせる。
「ココ。それでは、行こうかの」
「待って下さいっスううううう!!! オイラも行くっスよ!」
大荷物をノインに抱えさせてソラが勢いよくココたちのもとに滑り込んできた。荷車魔動器にも沢山の木箱を運ばせて、ソラはココに「オイラも自由都市の中枢に行きたいっス。お願いっ!! オイラを連れて行って欲しいっすよお~」と懇願し続けていた。ソラの手には丸められた設計図が握りしめられて、ココはその設計図を見て「あっ!」と声を上げた。
「ソラちゃん、その設計図って下天するための魔動器のやつだよね? だけど、未だ完成してないんだ」
自分が設計している下天魔動器の設計図を見つめて申し訳なく顔を伏せた。
「大丈夫、大丈夫っす! 全然問題なしっスよ。それに、これはココ師匠の技術を学ぶために持っているんスから。決して都市の中心結晶石を使って稼働させて、自分とココ師匠だけ落ち延びようって考えてないっス!」
ソラの目は視点が定まらず泳いでいたが、ノインの報告に救われた。
「ソラさん、指示通りに木箱は荷車魔動器に全て積み込みました」
「おお! そうっスか。これで下天するための魔動器が組みあがるっスよおおお」
「ソラちゃん! ノインちゃんは怪我が治ったばかりなんだから無理させちゃ可哀想なのです! もう、ほんとに無理はしちゃダメなんだよ」
そう言ってノインの頭をよしよしと撫でるココは、立派な系譜の主人然としている。その横からリヴィアが、ソラに対して含みをもった口調で言うのだ。
「ほう? 下天とな。下天するには多量のエーテルが必要じゃぞ? ふむ、都市の中心結晶石を使うのは常套手段ともいえるが、果たしてネキアがそれを許すかの?」
「あ! いや、違うっスよ。げはははっ」
思いっきり笑ってごまかすソラを脇に置いて、リヴィアは一同をぐるりと見渡して問いかけた。
「まあよい。それでは、皆の衆。準備は良いか?」
「だね! リヴィアちゃん行こう、守護都市エーベの中枢にっ」
唇に力を入れてココはリヴィアに転移魔術を促す。足元に大きく描かれた制御式は、これから転移する対象を光の粒子で包み込んでいく。ココ、ノイン、ソラと荷車魔動器が光のなかに閉ざされていくのをリヴィアは確認し、転移魔術を稼働させた。
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