58話 恐怖!それは美少女の叫び!


 ソラはロープを手繰り寄せながら崖をよじ登っていく。独りでは切り拓けなかった採取ルートが出来ていく様子に、彼女自身の満足を表すように頭の飾り羽が揺れていた。

 気が付くと、先導するノインは岸壁を登る手前で立ち止まっていた。ソラは訝しげに思いながらもノインに近づこうとロープを手繰ったが、しかし、ノインは静かにするようにと人差し指を口元に当ててきた。


 瞬間、ソラの全身に緊張が走り、ぎゅっとロープを握りしめた。魔獣がいるんだ!


 ノインは岩のくぼみで制止するソラを確認すると、再び意識を岸壁の上に向ける。エーテル反応は1つ。その姿から飛蜥蜴ヒカデであると認識する。ノインは下方にいるソラに手招きをして自分の場所まで来るように促す。ソラは素直にノインの指示に従い、ロープを手繰り寄せながら慎重に登ってきた。その間ノインは飛蜥蜴ヒカデの実存強度を確かめた。


 実存強度 飛蜥蜴 :1.350

      ノイン :1.370

      ソラ  :0.714


「ノインっち。大丈夫なんスか?」


 ノインが立つ岩場に登ってきたソラが小声で話しかけてくる。ノインは静かに崖の上を指さしてソラに現在の状況を手短に説明した。

「崖の上に魔獣が一体いるようです。まだこちらには気付いていないようですが、できれば奇襲で倒したいと思います。そのために視認をお願いして良いですか?おそらく飛蜥蜴ヒカデだと思いますが、確信が持てません。ですので、見るだけでいいので、どの魔獣なのか教えてくれると有難いです」


「そうっスか‥‥‥見るだけなら大丈夫っスよね? 襲ってきたら、ノインっちを世界の終わりまで恨むっスからね」


 ソラはそう言い残すと、ノインの肩に足を乗せて崖の縁から顔を出して恐る恐る覗く。ソラの飾り羽がそよそよと風に揺れていた。

 ソラが見やる視線の先には飛蜥蜴が岩場の上に張り付いて日光浴をしている姿があった。そのソラの視線に気付いたのか、わずかに魔獣がこちらに興味を示している。慌てて頭を引っ込めるソラをノインは下から眺めていた。


 魔獣とソラのエーテル反応を交互に観る。


 そして気付いた。


 ソラの飾り羽が魔獣を誘う囮になり得ることに。ソラ自身の弱い実存強度―――0.714であることも副次的な要因かもしれないが、それにも増して魔獣を引き付けることが出来るというのは重要なことだ。

 ソラがノインの肩の上で暴れはじめたので、ノインはソラが落ちないように両足をしっかりと掴み、直立の姿勢をとらせる。


「飛蜥蜴っス! 飛蜥蜴! ヤバいっス、死んでまうっスので、今スグに帰るっすよおおおおおおっっ!!」

「どうしたのですか? ああ、なるほど。このエーテル反応が飛蜥蜴なんですねえ。明らかにこちらに興味を持っているようです。ソラさん、そのままの姿勢を維持して頂けますか?」


 ノインは手のひらに連樹子を練り上げていく。ちょうど紅い杭になるように作り上げて、再びソラにお願いをした。


「ソラさん。もう一度、顔を上げて頂けますか? そして、飛蜥蜴を確認してほしいのです」

「嫌っス。命あっての人生っスから、確認なんてもう絶対にするわけがないっス!」


 決然とした態度でノインの依頼を断る。そのソラの考えにノインも深く同意を示す。確かに命に害が及ぶようなことであれば断るのも道理だと。しかし、ノインは連樹子を手の甲にいつでも射出できるように固定しているのだ。だからこそ、明るく笑いかけた。


「大丈夫です。僕がいますから、飛蜥蜴が襲ってきたら必ず僕が守りますよ! 命の危険はありません」


 ソラの同意を待たずに彼女の両足を持ち上げ、美少女ソラの頭にある飾り羽をひらひらと崖縁から見えるように動かし始めた。すると、やはり飛蜥蜴がそれに反応したようにエーテルが揺らぐのだった。


「ノインっち、ノインっちノインっちぃぃッ―――――!!」

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