59話 猛き戦士。その名はソラ。
シャレにならないといった表情でソラが泣きわめき始めた。
(1テリテ=麦の高さ1.5m)
ノインは飛蜥蜴が喰らいつく瞬前で、持ち上げていたソラを思い切り足元に落とし、飛蜥蜴から伸びてくる舌を掴んだ。それをロープ代わりにして飛蜥蜴との対面を果たす。
飛蜥蜴は突然に現れたノインに
連樹子であれば実存強度など関係なく、その飛蜥蜴の頭蓋を削りながら脳に直に突き刺すことができる。
一瞬、飛蜥蜴の全身に抵抗の気配が見えたが、すぐに麻痺したように動かなくなった。ノインは自分の義手の右手を見やる。連樹子を使用した義手はすでに自身の連樹子によって劣化してボロボロになっていた。この腕では再び連樹子を練り上げることはできないだろう。連樹子を使ったとたんに右腕が存在ごと喰われて持って行かれることは確実だ。だが、その損傷を差し引いても十分な戦果は得た。なぜなら、飛蜥蜴は完全にノインの支配下に入ったのだから。そして、彼の思い通りに飛蜥蜴を操作すことができる。
「ソラさん、飛蜥蜴を無害化しました。もう大丈夫です!」
ノインが崖下に向かってソラを呼ぶが、返事がない。不思議に思ってノインはソラがいるであろう崖下を覗く。そこには身を屈め、限りなく小さくなったソラが岩の窪みで震えていた。ノインは手を伸ばして、爽やかに声を掛ける。
「ソラさん、ありがとうございました。貴方のおかげで飛蜥蜴を生け捕りに出来ましたよ。本当にソラさんに感謝です」
屈託のない笑みをソラに振りまいて話すノイン。そのノインの声に恐る恐る顔を上げたソラが、感謝と言われて頬が微かに緩んだようだった。しかし、すぐに先ほどの恐怖が舞い戻ってきたのか表情は堅く閉じてしまう。
ノインは無理矢理にソラの手を掴んで、強引に彼女を崖上に引き上げた。
「うわああっ!! 魔獣に喰われちゃうスよおおーーー!!」
無理矢理に引っ張り上げられたソラは、すぐにノインの後ろに隠れ、身を屈めた。
「大丈夫です。飛蜥蜴はこちらの支配下に置きましたからね」
そう言ってノインは連樹子を通して、飛蜥蜴に魔術の爆炎を命じて放たせる。周囲を焼き尽くす炎と爆風が崖上に展開した。その燃え上がる光景にノインは天啓を得たようだった。
「ああ! なるほど、そうか。こうやって魔獣に命じて魔術を使わせれば、僕自身が魔術を使わなくても、そして聖霊契約を行使しなくても良いのです!ソラさん、ありがとうございます。貴方のおかげで、僕は新たな知見に辿り着きました」
木々を焼き尽くす魔術の光景に呆然としてしまっているソラに、ノインは片膝をつきソラの瞳に近づきすぎるくらいに近づいて、彼女の瞳をじっくりと覗き込んだ。ノインの息遣いが間近で聞こえてくる。
「ソラさん、僕は貴方にとても感謝しているのです。こうして飛蜥蜴を難なく倒せたことも、魔術の新たな可能性を発見できたことも、ソラさんあってこそです。そして、何よりもソラさんの感じた恐怖は戦いに赴く誰しもが胸に抱くもの。でも、ソラさんは飛蜥蜴を生け捕るという戦果を上げました。だから、戦士として誇るべき立派なことをしたのだと自分自身を褒め
「え? ‥‥‥そうなんスか? それよりも、ノインっち。顔が近づきすぎじゃないっスか?」
ノインは立ち上がり、深く敬意を表わす。「人は絶えず目指す目的に向かって進むものです。ソラさんは素材採取という役目を為すために、戦士として立派に覚醒されたのですから! 」とノインは真剣に語りかけてきていた。だから、ソラは、
「オイラは鍛冶師なんスけど?」
と控えめに抗議の声を上げたが、それはノインの耳に届くことは決してなかった。
そんな彼らのもとにペルンとユリが辿り着く。
「ノイン様。魔獣を手懐けたのですか?」
驚くようにユリはノインに問いかけた。
「ええ!ソラさんがやってくれました」
淀みなくノインはソラを
「まー、なんだ? 怪我してねえんなら、先さ進むべよ」
特に驚いた様子もないペルンが、一同に号令を掛けた。その後方を遅れるようにして崖上に荷車魔動器が岩場を登り切って姿を見せた。
素材採取の道程は、飛蜥蜴を先導役にして無事に源流の滝に辿り着いく。
途中、魔獣との数回程度の遭遇があったが、飛蜥蜴を操ってそれらの魔獣を撃退してきた。ただ、飛蜥蜴の存在強度は連樹子が刺さっているために常時削られ続けていたのだが。まだ、あと1日程度は持つだろうとノインは目算している。
ノインは、その飛蜥蜴に滝つぼ周辺の警戒を命じて自発行動をとらせた。だいたい50テリテ(*75m)以内をぐるぐると回っていることだろう。
今日の採取行動は、この滝つぼに潜ってエーテル変性体を採る。4人もいれば簡単に指示された数を集めることが出来るはず。
ノインは、ふとソラを見つめた。そういえばソラは水の中が得意らしい、そのように彼女は道中で豪語していた。『水の中はオイラに任せて欲しいっス! こう見えても、オイラは水中を泳ぐ鳥の聖霊をなんスから! その雄姿をとくと見るっス』と、確かこんな事を言っていたはずだ。
ノインが思い出していた
「んだらば、さっさと採取してこいやああー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます