黒魔術師・災呪の穢れ
53話 流星群、恐れは黒炎に纏われる。
その浮島は120ミーレ(*180km)程の大きさで気候は亜熱帯。未開の原生林が広がっていた。その浮島の海岸線に接岸した舟羽は、さっそく上陸するための
(*1ミーレ=車輪が500回転した長さ:約1.5キロ)
「浮島って、本当に不思議ですよねー。天異界の宙に浮いているっていうのもそうなんですけど、気候が様々です。大きさも千差万別って聞きますし、どんな仕組みになっているんでしょう?」
「ノインっち。それは浮島の中心核であるエーテル結晶の、その属性によって決まるんス。浮島の大きさもエーテル結晶のエネルギー量に比例してるっス」
得意顔でノインにウンチクを語るソラ。ノインはソラが会話で説明してくれた浮島の核、そのエーテルの流れを探った。「確かに、浮島の地下層にエーテル中心結晶石がありますね」ノインが見つめる先の浮島の地中深くに大きなエーテル石の反応を感じとった。その結晶石を中心としてエーテルが循環し、浮島の気候や生態系は形づくられているのだと納得する。
「ただ、狭間由来の
両手をわなつかせながらソラは身震いを表している。黒針という言葉にノインは思い当たる節があった。ココの家で読み込んだ世界大全に記載されていた単語だ。そもそも魔獣は浮島のエーテルを源にして生まれてくるモノなのだが、黒針は狭間から生じるのだ。しかも、その実存強度は相当に高い。黒針の特徴として、黒い針のような大きな触角がある。それが黒針の名称の由来でもあったし、通常の魔獣とを区別する目印にもなっていた。
「ノインっちも知ってると思うっスけど、この前の鎮めの日に起こった蝕が『蝕甚』だったんスよ!それで、天異界全体に黒針が大量発生ス。だから、もしかするとこの辺の宙域にも出るんじゃないかって、専らの噂なんス!」
「それって、この前の蝕のことですよね?確かにエーテルの波が異常でしたから―――」
ノインは当時の石っころだったときを思い起こす。ココがノインを狭間から連れ出したその日がちょうど蝕甚の日だった。あの荒れ狂うエーテルの大渦が生じたのは次元階層・最下層『静海の宴』だったが、その蝕甚はさらに上位の階層にも影響を与えたことは間違いないと思う。だから、肩を震わして恐がるソラに、ノインは穏やかに言う。
「大丈夫です。僕が、ソラさんを危険な目には合わせません。だから大丈夫です!」
「ノイン様、黒針に出会ったらくれぐれも油断のなきように。黒針は集団で行動します。それらを統括する
ユリが真剣な声音でノインに注意を刻む。その表情の鋭利さに腰が抜けてしまうソラはノインの背中にへばりついて鼻水を啜っている。「ノインっち。オイラを守ってくれなきゃ嫌っすよおおおおおっ!!」その叫びが舟の甲板に響いたとき、彼らの頭上を流星群が流れた。
その流星群は黒い炎を纏っていた。
そのとても不思議な光景にノイン呟く。
「黒炎の流星……?」
「
目を細めてユリはその流星群の行き先を考える。狭間の蝕により生み出される魔獣を黒針という。黒針はエーテルを求めて天異界を彷徨う。その黒針群を操るのは
黒針が現れたということは、この周辺の浮島は彼らの餌食となるだろう。もちろんノインたちが上陸を果たしたこの浮島とて例外ではない。「……黒魔術師の下僕どもが、ついに最下層・辺境周辺部に目を付けましたか」吐き捨てるようにユリは、天上を鋭く睨みつける。
黒炎の流星群は、彼らのいる浮島をかすめて通り過ぎていく。その幾つかの欠片が浮島に零れたように見えた。
「うぎゃあああ!!!マズいマズいマズいっすぅよおおおっ。
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