52話 夢よ飛翔せよ、舟羽。
「ココのことは吾に任せておけ。お主らは、ココの求める素材集めをしっかりとやり遂げるようにな」
店先でココをぎゅと抱きしめながら、リヴィアはノイン達を見送る。
「では、行くっス~」
大きなリュックを背負ったソラが号令を掛ける。ノインは新たな打刀を腰に下げて、採取道具を載せた荷車魔動器の前に立つ。
「あと、何か持って行く物ってありますか?」
「そうですね。私は必要十分だとおもいますけど」
ノインの問いにユリは再び魔動器に載せた荷物類を確認した。その隣では、ソラが店先に目線を送り、こめかみを押さえている。そこにはリヴィアと肩を並べて手を振っているペルンがいたのだった。
「よす!おめえら、元気で行ってこい!」
見送りの挨拶を放ってペルンはココから小包を受け取り一緒に店奥に入っていこうとするが。そのペルンの頭をリヴィアが無造作に掴み上げて、荷車の上に放り投げた。ソラは荷車の荷物の上にペルンが落ちてくるのを待ってから、ノインに向き合う。
「荷物の積み込み完了っス。では、ノインっちとユリっちには浮島での魔獣退治をお願いするっスね~」
荷車魔動器の前を歩いていくノインの隣に、てくてくとソラが追いかけて横並びになる。その魔動器の後ろにユリが突き従い自由都市の玄関である港に向かう。
と思っていた。だから、港の外れにある寂れた小屋に行き着いたときは、戸惑いから疑問が口を出てしまう。
「この場所は港ではないですけど?出航するには港に行かないと行けないのではないでしょうか?」
「ノインっち、ここで大丈夫なんス!オイラの最高傑作である『舟羽』に乗って、目指す浮島に行くっスよー」
その荒れた小屋のなかに、ソラ力作の浮遊魔動器『舟羽』があるという。その舟は、ココの魔動器を独自に研究して丹精込めて創り出したソラの傑作品だ。ココの船ちゃん3号よりも二回りは小さいものの、その舟はココの船にも決して劣ることはないという。
「みんな、乗ってくださいっス。今から出発すれば明後日の朝には目的の浮島に着くっスよー」
「はあ~、やっぱ行くしかねえべなあ」
荷車からひょいと地面に飛び降りて、ペルンは背中を丸めて舟に乗り込み、すぐさまその甲板に横になった。「飯が出来たら起こしてくんろ~」と足を組んで、やる気なさそうに、その足をぱたぱたさせて本気で居眠りに入っていく。
「気持ちが高ぶってしまいますね。私も皆さんの力になれるよう頑張ります」
ユリが皆との素材採取ができる事を心待ちにしていたのか、軽やかな足取りで舟羽に乗船する。
ノインは納屋に置かれて積んであった道具を手に取り船に積み込む。荷車魔動器も船倉に入っていき、準備は万全。あとは、ソラの出港の合図を待だけだ。
ぷすんぷすんと回転途中で止まりそうな動力炉は、お世辞にも安心できると言える代物ではなかったが、ソラのきらきらした瞳がその言葉を押しとどめる。彼女はココの弟子、だから目的の浮島にもあっという間に着くのだろう。
「それでは、出航っス―――!!」
ソラの気合の入った掛け声とともに舟が浮かび上がり宙を走っていく。ノインはソラの揚々とした姿を見つめながら、後ろを小さく振り返った。その船尾からは白く尾を引くエーテルの軌跡が流れていて、小さくなっていく出発地が見えていた。ノインはその軌跡の尾を辿り、ココのいる鍛冶屋を探して―――その小さな一点を見つめて呟いた。
「行ってきますね、ココ」
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