49話 弟子よ、聞け!鍛冶師の掟。

 ペルンが眉間にしわを寄せて腕組みをしているノインを見て、外の通りを顎でしゃくる。


「まったく訳の分からねえ事を悩んでねえで、おめえには、おめえの仕事があっぺした。んだからネギ坊主なんだべよ。ほれ!外の荷物ば中さ運んで来るんべ~」

「そうでした!ペルン師匠、荷車魔動器から資材を降ろさなくてはなりませんでしたね」


 ノインが店先に出ていく背後で、ユリの真剣な声が聞こえていた。


「あの、ソラさん。この髪飾りはおいくらなのでしょうか?」

「おお!お客さん、お目が高いっスね~。これはエーテル結晶石の5等級が2個分っスよ」

「エーテル結晶石ですか……申し訳ありません。私、いま結晶石の半欠片しか持っていなくて―――」

「ほれ。これで足りるべ」


 ユリの背後からペルンが5等級結晶石を2つソラの目の前に置く。「ペルンさん、ありがとうございます」とユリの嬉しそうな謝意が聞こえた。


「まあな。それで……ソラ、ユリは客じゃねえべ。これから一緒に住む家族だべよ」

「おお!良い結晶石っスうううう!はいはい、ユリさんっスね。よろしく、よろしくっスうううう」


 と、ペルンの話よりも結晶石に頬ずりしているソラはとても幸せそうだった。

 ペルンに髪飾りを買ってもらったユリは、カウンターに設置されてある化粧鏡でさっそく髪飾りを付けている。そんな彼らの様子を眺めながらノインは、足元の魔動器を踏まないように気を付けて荷物を店内に運び入れていた。


「そういえば、リヴィアさんの姿が見えませんけど、ペルン師匠と一緒じゃなかったのですか?」


 ペルンはリヴィアの名前を聞くと忌々し気に舌打ちをして頭を掻く。そのペルンの側にいたユリが代わって答えた。


「リヴィアさんは別用があるとおっしゃって、港で別行動となったのです。ちょうどノイン様が荷揚げ作業をなされていたときです」


 そのユリの会話に続けるように、ペルンが後を追う。


「あんのウナギ野郎は『野暮用じゃ』とか言って、魔術で転移してどこかに消えちまいやがった。てめえの分の荷物もあんのに怠慢な魚類には、今日食う飯はねえべよ!」


 そう吐き捨てたペルンは、店内にならぶ長椅子に場所を移動して天井を仰いでいる。その口元には葉巻が数本同時に咥えられていた。ぶかぶかと煙を吸い、彼の人形体のすき間から青い煙がだだ漏れしていた。


「んだらばよ、ネギ坊主。その箱は右から二番目のとこに置くんだべ」

「はい、分かりましたよ。ペルン師匠」


 ノインがペルンに弟子入りしてから、ノインはペルンからネギ坊主と呼ばれるようになって久しい。彼は、ペルンの指示通りに木箱を積んでいき、その置かれた木箱に魔動器群が近づき必要素材を取り出して建築を続けていく。そのノインの姿をソラが食い入るように見入っていた。なんだろう?と思いながらもノインは、もくもくと仕事をこなしていたが―――、


「貴方はもしかして!もしかしてですよ?もしかしてーーー、魔動人形だったりしませんっスかああああああっ?」


 ソラが高ぶる興奮を押し殺しながらノインに血走った眼で問いかけてきた。ノインは何でそんなに興奮しているのか理解できずに、木箱を指定の位置において振り返る。


「ええ。そうです。僕はココ作製の魔動人形で、系譜従者になります。名前はノインと言います。えーと、ソラさん、これからよろしくお願いします」


 ノインは笑顔で一礼をして、顔を上げた。そこには鼻息荒いソラが眼前にあった。


「すごおおおおおっっいいっス!さすがっス!さすが、、ココッちです。こんなにも精巧な魔動人形を作製できるなんて……まるで人間じゃないっスか!」


 ソラはノインの体の各部位を舐めるように触ってくる。「なるほど、興味深いっス」とノインの腕や髪、そして脚を触ったりつねったりしていた。ノインはどうしたらいいのだろう?と悩み始めていると、ソラが興奮のあまりにココから手渡された羊皮紙を床に落としていた。


「ソラさん、落としたようですが?」


 ノインはソラが落とした羊皮紙を拾う。ソラはハッとした様子で彼から羊皮紙をふんだくった。「あー!そうだったっスぅ!」と、ソラは先ほどの様子とは打って変わって、店内の奥に積まれてある在庫品の入った木箱の附番を確認し始めた。


「ココッちの頼みごとを解決すれば、オイラに魔動器製作を教えてくれるんスよ。そういう約束になってるっス。でも、早くしないとココッちの機嫌が悪くなって教えてくれなくなってしまうっス!だから早く素材の在庫を確認しないといけないっスよおおお!」


 その店内の奥にある倉庫に入っていったソラは数点の黒鋼石を手に取り戻ってくる。「うーん、何点か無いものがあるんスけど。ココッち。もしかして、またオイラに採取して来いってことッスか?」少し涙目になるソラは羊皮紙が指示する素材をじっと見つめている。彼が秘蔵する床下の隠し素材箱もひっくり返しして探し回るが、見つからない。最後には彼は肩を落として床に座り込んでしまった。そのソラが持つ羊皮紙をノインは覗き込む。


「わっ!なんスか?」

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