44話 旅立ち。自由都市エーベに!
朝焼けが眩しく映えるなか、一同はココの燃えた家の跡地に集まっていた。ココの魔動器群がおさまっている地下室そのものを収納魔動器に入れるためだ。
「では、始めます!」
ココが球状の魔動器を掲げて自在式の制御式を展開する。その隣でリヴィアがココに代わってその制御式にエーテルを注ぎ、その複雑な多重層の制御式を発動させた。ココが製作する魔動器のなかには膨大なエーテルが必要とするものが少なくない。そして、この球状魔動器もその一つで、ココのエーテル量では起動さえしない代物だったが、リヴィアをもってすればいとも容易く本来の用途を発揮するのだ。
その球状魔動器によって、ココの地下室そのものがその球体のなかに収納されていく。ノインはその様子を見守りながら「魔動器って色々できるのですね〜」と感嘆していた。ココとリヴィアは隣接する作業場も納屋もすべてを球体に吸い込んでいく。残されたのはがらんどうの土地と、露天風呂。
「露天風呂は、旅の者が汗を流すために残しておくのじゃ。天異界の外れにまでやって来た者の疲れを癒すことじゃろうよ。それに、これから行くのは自由都市エーベだ。あそこはエーテルが豊富な浮島じゃからな、一番の温泉を掘ってみようぞ!楽しみしておくのじゃ」
腰に手を当てココに説明するリヴィアはどこか得意気で、その言葉に「おっきなお風呂がいい」とココが嬉しそうに話を返していた。
「よし!魔動器の収納はこれでだいじょぶだね。それでは、大樹に向けて発進しよう!」
ココたちを乗せた飛空艇は大樹を目指す。
◇
「では、ユリよ。吾の目の前に立つのじゃ」
「はい。お願いします」
冷厳な態度で望むユリが、リヴィアの眼前に立つ。その後ろには巨樹がそびえ立っていた。リヴィアはユリに手をかざして領域魔法を行使する。
「六律系譜をして、吾、リヴィアタンが求めん。『
自在式制御式がユリの体を包み込み、同時に巨樹が白く輝き出した。「やはりな」と目を細めて呟くリヴィアは、自分の推測が正しかったことに独り頷く。ユリが巨樹の守り目と言うのはある意味正しいのだろう。ただ、正確を期して言えば彼女の身は『封印鍵』となっているのだ。あの巨樹の足場となって同化している岩場こそが、閉じ込めておくべき『
ユリを包み込んだ制御式は、彼女を通して大樹に作用していく。リヴィアはココから受け取ったペンダントを手のひらに乗せて、ユリと大樹に向けて最後の制御式を展開した。
領域魔法が大樹をペンダントの内にと誘う。眩い光が周囲に放たれ、その輝きが収まったとき、既に大樹は大地からその姿を消していた。
「大樹は、この光石のうちに根付いた。じゃから、ユリよ。このペンダントと共にあれば大樹から離れることなく、守り目として如何様な場所にでも行けようぞ」
リヴィアはユリのほっそりとした首筋に手を回して、ペンダントを付けた。
「リヴィア様、ありがとうございます」
恭しくユリはリヴィアに対して一礼をとる。「礼ならココに言うのじゃな。吾の期待通りの光石を精製したのじゃから」とココを見やった。
「ココさん、ありがとうございます」
「これでみんなと一緒に行けるね!」
にへへ、と笑みを頬にためてココはユリと手を繋ぐ。そしてユリを船首に連れて行くのだ。
浮上した飛空艇の船首から見える景色。そこには浮島よりも大きな天異界の宙が視界全体に広がっている。ユリはその光景をじっと見つめ、その口元には彼女自身にしか知り得ない決心が固く結ばれていた。
全ての準備は整った。
ココ達は自由都市エーベを目指す。飛空艇は朝日の眩しさを背に受けて、高々と出航の軌跡を浮島の宙に描いて行く。
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