32話 魂に呪う。語る事すら無意味か。
リヴィアはココを大切に抱き上げ、傷口の塞がったその顔を愛おしそうに指でなぞる。再生の領域魔法がココを完全に回復させていた。まさか聖霊の
「これでココは、もう大丈夫じゃ」
ココの息が正常に戻っているのを聞きながらリヴィアは周囲の様変わりした景色を眺めて「これほどの威力・・・まさか『熾灼《シシャク』』であったのか?であれば、あ奴は連樹子を手にしたというのか?連樹子を扱えるのは悪霊だけだ。あの少年が悪霊そのものだとでもいうのか・・・いや、しかし、連樹子の亜種は存在しようとも真なる連樹子には至れないはずではなかったのか?」と、今しがた生じた事実にリヴィアは認識を改める必要に駆られていた。「連樹子の力を持つ者―――悪霊にとって法や倫理による加護は意味を為さない。だが、会話が出来て意思の疎通を図れるだけ、まだましということか。幸いにもあの少年は
「いやあ、びっくりしたべ。ウナギも攻撃しか能がねえかと思ったんだけどもよ、回復できるんなら最初から気合入れて、やれば良かんべよ。がはははっ~」
ココの寝顔を横から覗き込むペルンが、リヴィアの肩を叩いてココの傷が直っているを喜んでいる。が、案の定、リヴィアから「怪我人の前で騒がしい」と、畑のなかに吹き飛ばされた。
そのペルンと入れ替わるようにしてノインがココのもとに歩いてきた。
「すみません。原始術法がこんなことになるなんて……」
右腕の肘をひもで堅く結んではいても、傷口を縫合しなければ血のにじみは止められようはずがない。「魔動人形が血を流すか」リヴィアは独りごちた。どうやらノインは魔動人形と深く融合しているようだった。人形でありながらより生物種に近い存在として現れたのか、それとも器として創られたからなのかどちらであろう。それに、先ほどの原始術法により生成されようとしたものは『
ユリが天属性の領域魔法で消し去らねば、この次元階層の全域は滅失していただろう。『熾灼』とは世界を喰い尽くす炎なのだから。かつて熾灼を使えた者がいた。その者であってさえ熾灼を使うには相当の用意と条件が必要だったはずだ。なぜならば、熾灼を使おうとする段階で使用者は自身の魂が焼き切れて消滅してしまうのだから。連樹子と真に連結したモノはすべからく世界から消滅する。そして、熾灼を使うための条件がこの世界に成立しないよう封じていたはず。そうであるはずなのに目の前の少年は単独でいともた易くそれを成そうとした。一体、何者であるのか?
そう自戒を込めて胸に抱くココを抱きしめた。
リヴィアの聖霊の愛子に対する想いが溢れてくる。そして、悲し気にココを見つめるのだ。
ココ。お主の魂には―――
「あの、ココは大丈夫なのですか?」
押し黙っているリヴィアにノインは躊躇いながらも、ココの安否を尋ねてくる。熾灼を練り上げても焼き切れず存在しているノインをみて、リヴィアは絶望に似た感情を抱いてしまう。だが、おくびにも出さず応えた。
「当り前じゃ。ココは大事な聖霊の
唇を噛みしめ目を伏せて沈鬱するノインに、なおも続ける。
「ココは系譜浸食を受け、魂が損壊するところであった。
ったればこそココは無事でおるのじゃぞ。しかし、代償として肉体のダメージが想像以上のものだった。今は失った体力を取り戻すため休息が必要じゃ。そして、ノイン。問題なのは貴様だ。系譜とは魂を繋げる連環。だからこそノイン、貴様が操る原始術法が系譜原典を最優先に攻撃してしまった」
「・・・はい。僕はもう原始術法を使いません」
「ほう?しかし、使わぬと言って使うのが世の道理じゃ。ノイン、ひとつ聞くが原始術法を使うとき何かしたか?系譜浸食は原始術法の後半で生じた、ゆえに何かあったのではないか?」
「多分、連樹子だと思います」
「連樹子?初めて聞く単語じゃな。それはどのようなものか説明してみせよ」
リヴィアは連樹子を初めて知った素振りでノインの説明に聞き入る。大事なことはノインに連樹子とエーテルの同時使用をさせないことだ。『熾灼』は連樹子とエーテルが混ざり合うことで形成されるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます