26話 異形の魂。それは声のカタチ
「ココさん、もしかしてなんですけど。彼は狭間からいらっしゃった方なのでしょうか?間違えていたら、ごめんなさい」
「ううん。ユリちゃんの言う通りだよ!!私が白亜の浜辺で見つけて連れて来たのです!そりゃもう頑張ったんだよねー。そうそう、ノインちゃんはこんな感じに丸い綺麗な結晶石だったんだよー。で、私の製作した魔動人形として生まれたのだ!」
「結晶石ですか!?なるほど、そうであればノイン様の独特な雰囲気も納得できますか・・・。でも、失礼ながら・・・大丈夫なのですか?彼の素性とか、何者であるのかを確認はなさったのですか?」
ノインの素性が結晶石だったことを知ったユリはココの両肩を掴んで、念を押して問うている。そんな彼女にペルンが自信満々に説く。
「いんや、何も聞いてねえべ。でもよ、ココの系譜さ入ってんだがら、何者であったとしてもココに危害を加えることはないはずだべ。それによ、もともとは気っ色悪い石だったけんども、所詮は石っころだがらな。問題ないべ~」
「ごめんなさい。失礼なことを言ってしまいました」
ユリは深く頭を下げて、そしてノインにも謝る。ココは「ユリちゃん!気にしなくていいのだよ。私はユリちゃんの大好きだもん!だからね、一緒にご飯食べよ」と、ユリを昼食のテーブルに引っ張っていく。
ノインは先ほどのペルンの言葉を考える。ペルンは系譜原典には逆らえないという。それは束縛されるということを意味しているのだろうかと系譜に意識を潜らせてみる。ココの系譜に属していることは感覚で理解できるのだが、自分を束縛するような感覚は一切感じない。系譜の束縛というものは本当にあるのだろうか?
「ノイン様。服が破れております。魔獣と戦われたのでございましょうか?」
ユリは少年の衣類の破れ口を目線でなぞりながら聞いてきた。
「ええ、襲ってきたので倒しました。―――っと、そうだ。その魔獣からエーテル結晶石を手に入れたんです」
背嚢にしまい込んだエーテル結晶石を取り出してココに渡す。ココは「おお~!これは5等級じゃん!良いものだよ」とエーテル結晶を両手で持ち上げ目を大きくして喜んでいる。
「魔獣から取り出されたのですね。良い結晶石でござますね」
「ええ、ココが喜んでくれたらと思って―――」
そこまで言うとノインはユリに向き直る。彼女なら何か知っているような、そんな感じがしたのだ。だから、現在のノインが問題としている制御式の描き方について問うた。
「実は……僕は魔術の制御式が使えないんです。使えないというか、魔術を使用するための制御式が描いた途端に壊れてしまうんです。ユリさんは制御式を用いない攻撃魔術というものをご存じでしょうか?」
ノインは制御式を描くことができない。制御式を描いた端から連樹子がその存在自体を滅失させてしまうのだから。ノインがユリの返答を聴こうと一歩前に踏み込んだ姿に、ココが割って入ってきた。
「ノインちゃん、制御式が描けないの?そっかー、そうだったんだ・・・制御式が壊れてしまうっていうのは何か原因があるからかもしんないね。うん、分かった。私が絶対に制御式が描けるようにするよ!」
「ココさん。そもそも普通の魔動人形が制御式を編むことなどできないのです。制御式を編むことができるのはココさんが製作した人形とペルンさんだけです」
「まあね!私は天才だからね、ちょーすごい魔動器を作れちゃうからね」
ココが鼻息荒く自慢げに語る。
「ココさんの小型魔動器たちは畑で魔術を使って作業をしています。ですので、ノイン様が魔術を行使できないのは、何か原因がお有りだとは思うのです」
そんな会話を聞いてか知らでかペルンが畑の方から揚々と声を掛けてきていた。
「ノイン!ほれ、見でみろや~。畑の耕作には魔術が必須なんだわな。こうやって、畑をうなっていくんだべした」
ペルンは耕作途上の大地に鍬を打ち下ろす。その鍬の周囲には制御式が編まれて、鍬を地面に当てる度に土が大きく耕されていく。んがはははっー!ペルンの笑い声がいつもより大きく聞こえていた。農作業用人形であるペルンにとって畑づくりは何を差し置いても彼の生甲斐であり、天職なのだった。
「ペルンさんの体の使い方。以前よりは重心の使い方が良くなってきましてね。私の教えを守っているようで何よりです」
ユリが農作業用人形の重心のとり方を評価しているなか、ノインは制御式を描いてみせた。彼の言う通りに確かに制御式が編まれる端から自壊していく。ノインはできることなら魔術を使おうと思っている。それがココの目的を果たす近道だと考えて。
「ノインちゃん。その紅い枝はなんなの?」
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