25話 微笑み。秘めし思い


「ええ、大丈夫です。この体には自己修復機能が備わっていましたから。さすがココですね!」

「ふふふ!そうなのです。ノインちゃんの体には私の全ての技術を盛り込んでいるんだから!だから、強いのは当然なのです。でも、無理は本当に禁物なんだからね」


 ノインに主人としての威厳を示すようにココが腰に手を置き、大きく胸を張る。


「本当にノインちゃんが無事でよかった!系譜の繋がりから無事なんだってことは分かっていたけど、でも―――、ホントに心配してた!」


 大きな紅い瞳がノインをじっと見上げている。


 系譜の原点であるココは戦うすべを持っていない。大魔術師だと豪語する自分が使える魔法は、一種類だけ。それは魔動器を製作する魔法のみ。しかも保有エーテル量が少なすぎで数カ月に1回の頻度でしか使えず、無理に大きな魔法を使おうとすれば反動で十年単位で寝込んでしまうことも度々ある。それでも、ココはみんなと一緒に歩いていくと決めている。少しずつ少しずつかもしれないけど、自分のエーテル保有量を増やして、魔動器作製魔法以外にも使える魔法を増やしていき、そうして皆で一緒に天異界の中央に行くんだ、と。


 ココはもう一度ノインの手を強く握りしめて笑顔で微笑むのだ。「さすがノインちゃんだよ!」と。ノインもまた口元に笑みを溜めて「当然です」とココに頷き返す。それからノインの目線はペルンの姿を捉え、彼の指示通りに敵を倒したと鉄杖を掲げて見せた。


「おう!ノイン~、無事みてえだなや」


 ペルンは手を振ってノインを昼食の席に手招く。広げられた昼食は4人分。ほかの誰かを待っているのだろうか?と思いながら席に着こうとしたちょうどそのとき、背後からふいに声を掛けられた。


「ココさんのご友人の方でございましょうか?初めまして、私はユリと申します。以後よしなに―――」


 その声にノインはぎょっとした。いつの間に現れた?それも、どこから来たんだ?ノインはペルンに向かっていた意識を突然現れた女性にシフトさせる。そして、顔をこわばらせて警戒を露わにした。

 ユリは、そんな警戒するノインに対してお辞儀をする。


「不躾ではありますが、お話を勝手に聞いておりました。貴方様をノイン様とお呼びしても構わないでしょうか?私のことはユリとお呼び下さいませ。私は、あそこに見える巨樹の守り目を任されている者です」


「そう!ユリちゃんはずっと昔から巨樹を守ってきてるんだよ。私たちがこの場所に来た時からずっとなんだ。すごいよねー」

「んだ。ユリはこの畑の地主なんだべ、俺も頭が上がらねえんだよなあ」

「いえいえ、そのようなことはございません。私の方こそココさんやペルンさんに、沢山のことを教えてもらっているのですから」

「がははは!そんなに褒めてくれるんだったら、俺も採りたての野菜ばもってくんべよ~」


 ノインは彼らの会話を見つめる。ココたちとユリは旧知の仲のようで親しく会話を繰り広げていた。ノインは要らぬ警戒をしてしまったようだと鼻の頭を掻いてユリに挨拶を返す。


「僕はノインと言います。ココの従者となって数日しか経っていませんが、どうぞよろしくお願いします」


 エーテル支配度は上がるにしたがって周囲を威圧する。ユリの気配は穏やかなものであったが、底知れぬ感触がノインの神経を泡立てている。だから警戒をしてしまったのかもしれない。ノインは彼の目に映る彼女のエネルギー量―――実存強度を認識してみた。



 実存強度 ユリ:2.015(X.XXX)


 

 彼女の実存強度が二重にダブって見えている。エーテルが二重写しに見えるなんて、狭間を蠢く猛き魔獣であっても見たことはない。体を持つ以前からエーテルを認識してきているノインにとって初めての経験だった。これは一体どういう意味なのだろう?彼女の実存強度は二つあるということなのか?その疑問にはエーテル認識に長けているノインでさえも答えを出すことはできなかった。ただ分かることは、彼女はノインたちが存在する次元階層の一つ上の2層にいるべき力を持っているということだけ。自分たちがいる天異界1層『静海の宴』の一つ上の層にある2層目『選別の都』にいるべき実存強度。ノインの前に立つユリは彼らとは立つ次元を異にする強者であったのだ。

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