27話 星よ、我が手に来たれ!
目を丸くして、ココがノインの連樹子を見つめていた。興味深げに、でも不安気にその制御式を壊す紅い枝を指さしている。ユリもまたその樹枝を見つめた。
「紅い枝が見えますね・・・。これは人形体の特殊機能なのですか?それともノイン様独自の何らかの能力なのでしょうか?」
ノインはその連樹子を伸ばして自らの手よりも大きくしてみる。
「おお~!真っ赤な樹枝だー。ね、触ってもいい?」
「ココさん、得体の知れないものを触るのはやめるべきです」
ノインの手の指から伸びている紅い樹枝―――連樹子を握ろうとしたココを背中から抱き寄せて、彼女をノインから引きはがした。
「おーーっす、ノイン。何か面白いことでもしてるのが~?」
ペルンが荷車魔動器に作物を沢山載せてやってきた。「ほれ~、豊作だわな~」と自慢する。
「ペルンも見えますか?ココとユリさんは紅い樹枝だって言ってますけど」
ノインが連樹子を生じさせている右手をペルンの前に差し出す。
「その手のことか?まあ、確かに何かあるようには感じるが……。それよりも作物ば、家さ持って行く準備だべよ」
ユリはペルンが荷車魔動器に載せた作物の葉の一枚―――手のひら程度の大きさの葉をむしり取り、それに制御式を描いた。ココはそれをみて「制御式の固定化だね。魔動器製作の基本なのだよ」と目を輝かせている。
「制御式を描くことが出来ないなら、既に刻まれた制御式から魔術を発動されてみてはいかがでございましょう?」
ノインはユリから制御式の描かれた葉を受け取り、それにエーテルを注いで魔術を発動させようとする。だが、連樹子がその葉自体を喰らってしまい魔術は発動することなかった。
「制御式の固定化でも消滅してしまうのですね。ノイン様の場合ご自身での制御式操作は魔術発動に至ることはないと結論付けて良いと思います。では、次案として聖霊を召喚してみては如何でございましょうか?その聖霊に制御式を描かせ発動させる、魔術の代行を行わせるのです」
「おお、ユリちゃん!その手があったね」
「ココさん。ノインさんは契約者としての器たり得ますか?」
「もっちろん!器として作製してるから、問題なしだよ」
「では、私が召喚陣を描きます。ノイン様は契約の準備をなさって下さい」
ユリの提案にココが同意し聖霊契約の準備は着々と進んでいく。その横ではペルンが作物の品質の確認をしていた。「これは虫食ってんべ。んで、こっちのこの音は中身が詰まってる音なんだべよ~」ペルンは聖霊契約など、どこ吹く風で作物を一つ一つ磨き始めていた。
ノインは彼自身が要領を得ていない聖霊契約についてココに聞く。
「うーんとね。この世界の魔術の一つに聖霊魔術というものがあって、それは聖霊が制御式を編むというもの。天異界に住む聖霊はみんな、それぞれに独自の系譜を創っているの。その系譜の中で一番に強くて歴史があるのが『古き大聖霊の六律系譜』なんだ。六律系譜はね、現在のすべての属性魔術や魔法を支配していて、本当にすごいんだよ。それ以外の聖霊はそれぞれの浮島ごとに系譜を作ってて、でも六律系譜の属性影響を受けています。もちろん私も、この浮島の原典として系譜を名乗らせてもらってるよね。でも、まだノインちゃんしか従者がいないんだけど」
ココは両手で頑張る!と両手を腰の位置で小さく構えてみせる。彼女の隣ではユリが描く立体制御式が幾つも宙に展開されていた。ココはノインに微笑み、続ける。
「これからノインちゃんがするのは『契約』なんだ。特定の聖霊と契約することで、その聖霊に制御式・魔術情報を処理してもらって魔術を発動してもらう。その魔術を発動してもらった代償として自らの器の一部を差し出すんだよ。それを為すために特定の聖霊との合意を形成することを『契約』というんだ。一度契約したら、どちらかが破棄しない限りは永続するのです」
ノインがこれから行う『契約』は特定の聖霊との合意を為すこと。そして魔術の行使の際にはノインの器を代償とするものだということは理解できた。
「その代償となる器って、具体的に何なのでしょうか?」
「器っていうのは魂とか肉体とか、あとは能力だよね。聖霊はエーテルそのものだから本来は姿形は持ち得ないもの。だから、現世界から魂を貰い、姿形を貰い、その能力を貰う。そうすることで聖霊は天異界でより多くのエーテルを獲得することができる器を形成できる。そういう仕組みになっている」
なるほど、とノインは頷く。ユリの召喚魔術陣によって聖霊と『契約』を結び、その聖霊に代償を捧げれば魔術を使用することは可能になる。なら、それは簡単なことだと彼は思った。
「ノイン様、準備が整いましてございます。そちらの魔術陣の中央に立って下さいませ。聖霊召喚を始めます。それでは意識を集中して『一番大きな輝き』を見つけて下さい。それが聖霊でございます。そして自分のところに来てくれるように訴えて下さい」
ノインが陣の中央に立つのを確認すると、ユリは領域制御式を発動する。幾多の立体魔術がノインを中心にして組み合わさっていく。「ユリちゃん、本気だ―」ココが展開されていく制御式を賞揚する。「ココ、もう少し下がるべよ。危ねえべ」いつの間にかペルンがココの隣に来ていた。彼女はペルンの手を握り呟く。「私が聖霊召喚陣を描けたらよかったんだけどね」「何言ってやがるよ。ココは魔動器を作製できるっていう特別があるべ」ペルンがそう言うと、ココは彼を大きな瞳で見上げて、微かに頷くのだった。
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