23話 遥かなる強者。天ノ則
ココの研究室にあった書類の一文を
ノインは駆けだす。牽制役の魔獣を無視して、リーダー格の喉笛に鉄棒を突き刺すために姿勢をさらに低くして一直線に向かう。ちりちりと肌に刺さるようなエーテルの収束を感じた。それはその魔獣が雷撃を放つ直前を意味する。それでもノインは躊躇することなく、速力をさらに上げていく。
魔獣の咆哮が雷撃をほとばしらせた。
周囲の木々は雷撃の膨張した衝撃波で、なぎ倒されていく。ノインは体の前方一点―――魔術との衝突面に、エーテルの防御壁を厚く重ねて尖らせる。雷撃が彼のエーテル防御壁をぶち破るように当たってくるが、鋭角の防御壁が左右に電撃を斬り流していた。それでも魔術の熱量は凄まじくノインの手を溶かすが、彼は構うことなくそのまま猛然と魔術の袂に突っ走る。その雷撃が放たれ終わったとき、ノインはその魔獣の喉笛に到達していた。
全身をばねにして全体重を鉄杖に乗せた渾身の一撃が鋸牙狼(イバラ)の喉に穿がたれた。その獰猛な一撃は見事に首元を貫通した。そして、そのまま体重を載せた蹴りを鉄杖の末端に押しいれて魔獣の堅い頸椎を砕く。それで終わるはずだった。
確かに鉄杖の渾身の一撃によって、鋸牙狼の首は砕かれ頭はあらぬ方向に折れたはずであった。
しかし、
鋸牙狼は絶命することも倒れることもなく悠然とノインを見据えているのだ。ノインが与えた攻撃のすべては幻のごとくに掻き消えている。全てが攻撃をする前の状態に戻り、魔獣が真っ赤な口腔をノインに向けて咆哮した。
攻撃の無効化!
「これが
実存強度が0.100以上離れれば攻撃は全く通じない。この法則を
まるで煙に攻撃をするようなものだ。それを体感したノインは資料で読んだ書物の一節がノインの脳裏に浮かぶ。
彼はペルンから借りた鉄杖を強く握りしめ構えた。ココの気配は未だ遠くに離れてはいないのだから。
「いくら実存強度に勝るからといって、通すわけにはいきません」
ノインが倒れてしまえば、実存強度の低いココたちでは天則者に蹂躙されてしまうことは必至だ。だから、自分が今この場所で戦い続ける。
ノインは息を調え鉄杖を構えた。その彼の視線が鉄の棒を待つ自分の両手が目に入った。
「……連樹子」
白昼夢で連樹子と呼称された紅い樹枝。これを使えばこの状況に変化をもたらすことが出来るだろうか?全てをやり尽くすことが戦いだと思う。ノインは躊躇することなく連樹子を手に現した。彼は出現させた連樹子を鉄杖に這わせていく。それは血が滴るような一線となって鉄杖の手元から先端にまで巻き付いていった。
連樹子の効果は存在を喰らうことだ。そうであるならば、魔獣という存在自体も喰らうことが可能なのかもしれない。ノインは鉄杖を片手にして魔獣の2体を見据える。
牽制役の鋸牙狼がノインに再三体当たりを行ってくるが、ノインはその勢いを上手く受け流して魔獣を転がし、鉄杖で突く。それを何度か繰り返すたびに魔獣の実存強度が減少していくのが分かった。エーテルを貯える器を削るように連樹子はそれを存在ごと喰らって消し去っていく。何度目かの突きを魔獣に入れた瞬間に魔獣は体ごと霧散し消え去った。
連樹子に存在ごと喰われたということだろう。
―――と、
気が付けば、リーダー格の鋸牙狼とノインとの間合いが広がっていた。
リーダー格は自らに配属する魔獣の実存強度が削られていくのを観て、ノインを得体のしれないものと識別したのだ。その実態の分からないものとの戦闘を避けるように、徐々にノインとの距離を広げていく。「逃げるのですか?」ここで魔獣を逃してしまえば新たな群れを率いて襲ってくることも考えられる。だからこそ、ここで潰さなくてはならない。
ノインの前進を見て魔獣はさらに後退しようとするが、ノインの速力の方が勝り彼我の距離をみるみる間に縮められていく。
鋸牙狼は直線的に走ってくるノインに対して魔術の制御式を再び展開した。しかし、魔獣の想定よりも早くノインがその懐を入り込んできたのだった。鋸牙狼は展開途上の制御式に無理矢理にエーテルを流して魔術を強制発動させようとするが、ノインの連樹子を這わせた鉄杖の方が幾分速く、その鉄杖が鋸牙狼の頭蓋に刺さり連樹子が頭部全体に根を張る。
予想通りに連樹子が鋸牙狼の頭蓋を消し去った。連樹子は世界の法則たる実存強度を容易く超越し、その悉くを世界から滅失させたのだ。同時にノインの実存強度も0.1上昇し1.370の存在となった。
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