20話 戦う意思。殺意を砕け
「ペルンの畑は浮島の中でも一番大きな樹の下にあるんだ。その大きな樹を目指していけば、地図なんてなくても平気ってわけ!」
ノインはココが指差す道先を見やる。その山道は暗がりの森の中を下っていた。彼は辺りの木々を見渡す。ココが言う巨樹を確認しようと思ったからだ。
「ココ。高いところから位置を確認してみようと思う。この場所の樹はとても大きい。だから大樹に登って上から見渡せば、ココの言う巨樹が見えるはずです」
ノインは背負っている背嚢を荷車魔動器に積む。ココはというと既に大樹にへばりついて懸命に上ろうと樹の幹をぺしぺし叩いていた。
「ココ、何回も言っていますが、もっと体を大事にしてほしいです。そんなに激しく体を動かせば今朝のようになってしまいます」
ノインの
「ノインちゃん、頂きまですっとばしてこー!」
ココの両手でノインの目も鼻も口すらも塞がれてしまって、ノインはふがふがと息を吐き何を言っているか分からない始末。しかし、彼女の命ずるままに彼は大きく大樹に跳躍する。体の筋肉に力を込め、勢いよく樹の上方に向けて大きく跳ねた。その大樹の幹の所々に生えてある枝の根元に足を置いて器用にノインは登って行く。「おおお!!」とココもそのノインの鮮やかさに嬉しそうに声を上げていた。
ココが作製した魔動器人形の体は身体能力がずば抜けて高く、10テリテ(*15m)程度の高さなら1回の跳躍で余裕で跳べてしまうのだ。
見る間にノインは樹冠に到達してしまう。
「樹冠に到着しましたよ、ココ。気持ち悪くはなかったですか?」
そう言ってココの顔色を心配そうに見つめてくる。ココは笑顔で応えて「うん、心配かけちゃってるけど。私は大丈夫だから」とノインにぎゅっと身を寄せる。ノインにもようやくノイン安堵の表情が広がった。「本当に高い樹です。ほら、遥か彼方まで一望できます」ノインはココと一緒に浮島の空一面、いや浮島から続く天異界の
「おおお!すごい。浮島全部、天異界の宙の彼方まで見えてる。あ!ほら、あそこ!でっかい樹があるの見える?あれが目的地ってやつです」
「ああ、本当に巨樹と呼ぶに相応しい大きさですね」
ノインたちが進んでいく森林の奥、山の裾野付近に大きな樹の他の樹の追随を許すことなく抜きん出ていた。それがココが言う巨樹なのだろう。その巨樹の根元に目指すべきペルンの畑があるのだ。そこまでの距離を目算すると、およそ5ミーレ(*7.5㎞)まだしばらくは掛かりそうだと判断できた。
(*1ミーレ=車輪が500回転した長さ:約1.5キロ)
「―――っ!」
突然に、ノインの感知範囲に強いエーテル反応が生じる。ノインたちのいる側方1ミーレ(*1.5㎞)付近に魔獣の反応と思われる3つのエーテル反応があった。魔獣の群れだろうか?それにしては数が少ない。ノインはココを再び抱きしめて、急いで木から直下に降りた。
「急に降りて来ちゃったけど、どうしたの?」
「魔獣が近くまで来ているようです。もしかしたら斥候かもしれません。こちらも頭数を揃えるために急いでペルンと合流したほうがいいです」
彼は魔獣の侵攻方向を再度確認する。魔獣の緩慢な動きから推測するに逸れ魔獣なのだろうか?未だこちらには気付いていないと思われた。
索敵をしているノインの上着の裾をココがぎゅっと掴む。ノインはそれに気づきココを安心させようと笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ。僕が貴方を守りますから」
「よす!ノイン、よく言ったべ!」
突然にペルン声が森奥から突き刺さってきた。見やるとその小道の奥からペルンが姿を見せて来て、そのままココを抱き上げ荷車魔動器の荷台に連れていく。
「はい。ココは魔動器と一緒に安全な所まで逃げんべした。んで、ノイン。おめえは俺と一緒にココの為の時間稼ぎだ」
ペルンは杖代わりにしていた鉄の棒―――ノインの身長ほどはあるだろうか―――をノインに手渡す。と同時にココを荷台に乗せて待機していた荷車魔道具に先に進むように指示を出した。
「皆が戦うなら、私も戦う!」
「何言ってやがるべ、ココ。魔術の使い過ぎで体が悲鳴を上げてんのに。しかも、おめえは全然戦えねえのを忘れたのか?攻撃魔術も支援魔術も全然使えないべ?唯一の使用できるのが魔動器製作魔術のみなんだから、戦闘になる前に魔動器と退散しとくんだ」
「やだ!私だけ逃げるのはやだ。ペルンちゃんもノインちゃんも戦うんだよ?絶対に私も戦う。見なさい!私のこの猛き拳を。この拳は言っている!魔獣を殲滅せよと」
ココの小さな拳は堅く握られ、荷車魔動器の荷台で緩慢な動きのジャブ、そしてストレートを放っている。
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